ビジネスジャーナル > 企業ニュース > QR決済の手数料が経営を圧迫
NEW

有名カレー店、QR決済の手数料の高さが経営を圧迫し廃止…QRの実情と今後の展望

文=A4studio
【この記事のキーワード】, ,
有名カレー店、QR決済の手数料の高さが経営を圧迫し廃止…QRの実情と今後の展望の画像1
カレー店「ボンディ神田小川町店」の公式Twitterアカウントより

 昨年12月19日に東京の神田にある有名カレー店「ボンディ神田小川町店」がTwitterに投稿した内容が、1万以上の「いいね」を獲得するほどの話題を集めていた。それは、QRコード決済の利用が増えるにつれて毎月の決済手数料の支払いが高額になってきたため、2023年からQRコード決済を廃止して現金のみの取り扱いにするという報告だった。

 近年新型コロナウイルス感染症が拡大したこともあり、QRコードやクレジットカードでの決済がいっそう普及しているが、キャッシュレス決済は利用者側にはメリットは多いものの、店舗側は手数料の高さで経営が圧迫されてしまうというデメリットが指摘されている。

 QRコード決済といえば「PayPay」「楽天ペイ」「d払い」「au PAY」「メルペイ」「LINE Pay」などが有名だが、そもそも店側が支払う手数料はどのように決められているのか。今回のボンディ神田では手数料3%だったとのことだが(事業者によって異なる)、店側が負担することになる決済手数料でQRコード導入を躊躇している店や、ボンディ神田のように廃止を検討している店も少なくないだろう。

 そこで今回はキャッシュレス決済の店舗にとってのメリットとデメリットや、ボンディ神田のような店が今後増える兆候はあるのかについて、キャッシュレス決済などのFinTech分野に詳しい有限責任監査法人トーマツの上田綾乃氏に詳解してもらう。

QRコード決済のメリット、デメリット

 はじめに、日本でQRコード決済を導入している店舗は現在どの程度あるのだろうか。

「導入している店舗数については、公表されていないためわかりかねますが、決済事業者各社が公表しているQRコード設置箇所によると、大手のサービスだと200~500万箇所もの設置店舗があるようです。

 しかし、2021年時点で経産省で公表したキャッシュレスの比率を見ると、日本全体のキャッシュレスの比率は32.5%と出ており、そのうちの1.8%がQRコード決済となっています。全体的に見るとQRコード決済の比率は高くありませんが、これは分母が決済金額で算出されており、他のキャッシュレスの手段と比べると少額の決済に利用されるケースが多いため、金額ベースで考えると割合としては高くないという結果でしょう。ただ他のキャッシュレス手段と比べて、QRコード決済は伸び率が高いという事実もあるので、利用拡大に向けてはむしろ伸びしろがあるのではないかと捉えています」(上田氏)

 現金と比較して、QRコード決済を導入することによる店側のメリットはどういったものがあるのか。

「メリットは大きく分けて3つあります。1つ目は現金の盗難防止や防災の観点で、現金の場合だと、その場で盗難されるリスクや震災や火災で残らないリスクが発生してしまいますが、QRコード決済はそういった意味で安心といえるでしょう。2つ目に挙げられるのは管理コストの低減ですが、例えば現金だと両替や入金には手数料がかかりますし、現金を店舗で管理する場合は管理するスタッフへの人件費が必要になります。QR決済を導入することで全体的な管理コストが低減できます。3つ目は利用者拡大による売上向上が期待できるという点です。QRコード決済をベースにした、国や事業者からのポイント還元事業が多く展開され、キャッシュレス支持層が拡大していくことで、来客の促進と売上向上につながるわけです。さらに、決済サービスのなかには利用者の属性分析やメッセージ配信など、店舗のマーケティングに生かせる機能もあります」(同)

 だが今回のボンディ神田のように、QRコード決済では手数料の高さが大きなデメリットとなるケースもあるだろう。

「デメリットも大きく分けて3つあります。1つ目は今回話題になっていたように、手数料が高額になってしまうと、店の利益を逼迫していってしまうという点。2つ目は入金までのタイムラグが発生してしまう点。QRコード決済の場合、月にまとめて入金、早くて翌営業日や翌々営業日に入金など、現金に比べて即時性がないことが挙げられます。

 3つ目には売上管理の煩雑化が挙げられます。例えばPOSレジを使っている店舗の場合、QRコード決済端末と連動していないと逆に作業工程が増えてしまい、結果オペレーションや売上管理が煩雑になってしまうケースもあるのです」(同)

手数料は決済事業者によって異なる

 ボンディ神田がQRコード決済を断念した要因である決済手数料の額はどのように決まっているのだろう。

「QRコード決済の決済手数料は各決済事業者によって異なります。それぞれの決済事業者が、内部的なコストや店舗の利用者数、QR事業から派生して将来どのようなビジネスに発展するかという構想によって、総合的な経営判断がなされているのでしょう。過去には、QRコード決済による手数料0円キャンペーンが続いた時期もあり、その際は事業単体で見ると各社赤字になるケースも多く生じていたようです」(同)

 では、QRコード決済手数料が3%という数字は、はたして適切なものだったといえるのだろうか。

「QRコード決済手数料の水準は1.6~3.25%ぐらいで、キャッシュレス決済手段のなかでは比較的低く、法外な額というわけでもなく常識的なパーセンテージといえるでしょう。決済事業者側の目線でご説明すると、支払うコストとしてのネットワーク利用料や、ユーザーが銀行口座からチャージする際、決済事業者が銀行に対して支払うチャージに関連する費用などがあります。さらに、ユーザーがクレジットカードを登録してQRコード決済を使用する場合は、クレジットカード会社側に支払うカード利用料もあります。加えて、利用ユーザー獲得のための費用やユーザーに与えているポイントの原資など、さまざまなコストが実際に発生していることを踏まえると、手数料の設定は暴利ではなく、現実的な数字だと考えられます」(同)

手数料が下がっていく未来はあるのか

 QRコード決済にはさまざまなメリットがあるものの、決済事業者にかかるコストが下がらない限り決済手数料も下がらず、ボンディ神田のような選択を取る店が増えていく可能性もあるだろう。

「確かに個人店や中小規模のチェーン店だと、利益に対しての手数料が大きな負担になることで導入のメリットを出しにくいというのが現状で、結果キャッシュレス普及へのハードルにもなっているのです。しかし最近、経産省では手数料を下げていくために業界構造がどうあるべきかを中心に分析がされています。手数料にかかる費用の内訳で最も大きいのが、銀行に支払うチャージ関連費用ということも明らかになり、銀行に公正取引委員会の実態調査も入っています。そのため今後さまざまなコスト低下が実現していけば、全体的に手数料が下がる可能性も十分ありえます。将来的に、キャッシュレス比率80%を目指す政府としては今後もポイント還元等の施策を実施するでしょうし、QRコード決済には多くのメリットもあるので、店舗の規模によってどういう決済のスタイルを選んでいくのかが重要になっていくのではないでしょうか」(同)

 QRコード決済には、決済手数料の高さを含めたデメリットもあるが、導入することでの客数増加といったメリットがあるのも事実だろう。今後もし手数料が下がっていけば、個人店や中小規模のチェーン店でも導入しやすくなるはずだ。

(文=A4studio)

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

有名カレー店、QR決済の手数料の高さが経営を圧迫し廃止…QRの実情と今後の展望のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!