今年9月26日には、ドイツの水洗金具大手・グローエを約3800億円で買収すると発表し、住宅設備業界の話題を呼んだ。だが、グローエ買収が明らかになった24日以降、LIXIL株は売りが買いを上回り続け、株価は10月1日までに6%下落した。
16年までに海外売上高1兆円の中期目標(2013年3月期は2051億円)を掲げる藤森義明社長は、海外M&Aを積極的に推進し、グローエ買収発表の1カ月前の8月20日には、北米の衛生陶器最大手・アメリカンスタンダードを約530億円で買収。同日付で完全子会社化したばかりだった。
証券アナリストは、「11年12月6日に、まずイタリアのカーテンウォール大手・ペルマスティリーザを約610億円で買収、同日付で完全子会社化している。その効果がまだ業績に反映されていない。13年3月期の海外事業の営業損益は、55億円もの赤字を出している。そんな中での大型買収2連発。これでは巨額投資の財務リスクに加え、海外事業の業績改善につながるのかと、市場が疑念を抱くのは当然」と、株価下落の要因を指摘している。
「時間を買う」(藤森社長)と、飽くなきM&A戦略で「海外売上1兆円」に突き進むLIXIL。日本人初のGE本社役員を務めた経験を持ち「GE仕込みの辣腕ディールメーカー」といわれる藤森社長は、株式市場でくすぶるLIXILへの疑心暗鬼を鎮められるのだろうか。
●複雑な買収スキーム
LIXILで過去最大となったグローエ買収は、外資系ファンドも顔負けの買収劇だった。9月24日の朝、ブルームバーグと日本経済新聞が「約4000億円でグローエ買収を交渉中」と報道。これに追随した内外の報道に押されるようにして、LIXILがグローエ買収を発表したのは2日後の9月26日の夜更けだった。
記者発表に現れた藤森社長は、「当社はこれまで水洗金具が弱かった。グローエ買収により、世界で1〜2位を争うブランドを手に入れた」と、買収の目的を説明した。グローエの水栓金具は高級住宅やホテルで使われている欧州のトップブランド。買収により浴槽、衛生陶器など水回り分野で欧州市場に本格進出する考えも示した。藤森社長は「アメリカンスタンダードに続くグローエの買収で、水回り分野の超一流のラインナップが揃った。既存のアジア展開と合わせ、世界最大の水回り品メーカーになるための基盤が整った」と、海外大型買収の成果を強調した。
LIXILによるグローエの買収スキームは、外資系ファンドも舌を巻く複雑なものだった。グローエは約1600億円の負債を抱えているからだ。LIXILはまず、日本政策投資銀行と議決権折半でSPC(特別目的会社)を設立。14年前半をめどに、SPC経由でグローエ株の87.5%を取得する。そしてこのSPCに対し、LIXILが普通株と優先株を合わせて992億円、政投銀が議決権付き優先株で500億円、三菱東京UFJ銀行など国内メガバンクが議決権なしの優先株490億円を出資する。
一方、グローエが抱えている約1600億円の負債は、国内金融機関が組成するノンリコースローン(非遡及型融資)に切り替える。返済原資はグローエが生み出すキャッシュフローに限定されるので、LIXILは返済義務を負わずに済む。この負債を含めた買収額が約3800億円になる。M&Aの専門家は、この複雑なスキームを「自社のバランスシートや格付けを悪化させることなく大型買収を行える絶妙な手法」と評価している。