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「ボンカレー」地味でも55年間ヒットし続ける驚異の秘密…進化と変わらなさを併存

文=横山渉/ジャーナリスト
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大塚食品「ボンカレーゴールド」

 世界初の市販用レトルト食品「ボンカレー」は1968年2月12日の発売開始以来、今年55周年を迎えた。1月10日には「最長寿のレトルトカレーブランド」としてギネス世界記録に認定されたことを発表した。現在は「ボンカレーゴールド」(1978年発売)が主力商品だ。毎年メーカー各社から数多くのレトルトカレーが発売されているなか、なぜボンカレーは長きにわたり多くの消費者から支持され、売れ続けているのか。大塚食品製品部レトルトチームボンカレー担当の中島千旭氏はこう語る。

「55年前にボンカレーが出た時も、今もそうですが、お客様のニーズや困りごとに対してレトルト食品でお力添えさせていただきました。例えば、お湯で温めて調理する湯せんだったものがレンジ調理に変わったり、国産野菜になっていったり進化していくわけですが、その時代の社会背景をキャッチアップしていき、ブランドも進化させていく。そういうところでお客様とのコミュニケーションをさせていただいたということかと思います。

 発売当時は主婦が働き始め、家庭内での「個食」が進み始めた時期だった。一人前入りで、お湯で温めるだけで誰がつくっても失敗しないカレーとして開発された。当時からカレーライスは国民食だった。ボンカレーが他社に先駆けて電子レンジ対応になったのが2003年、ボンカレーゴールドは2013年だったが、消費者の調理の手間が減り、実際に売り上げアップにつながった。具材を国産のじゃがいも・たまねぎ・にんじんへと切り替えていったのは2016年で、これは社会的に国産食材へのニーズが高まったからである。

「お母さんの作ったカレー」

 しかし、進化しながらも守り抜かれてきたこともある。発売以来、一貫しているコンセプトは「お母さんの作ったカレー」。黄みがかったルーや玉ねぎの甘みが勝った優しい味わいが特徴となっている。

「家庭で作るとき、玉ねぎをあめ色になるまで炒めるのは大変だと思いますが、その手間ひまかける点をこちらでさせていただき、少しでも家族の時間に繋げていただきたいと考えています。また、ボンカレーブランドの味のベースなっています」(中島氏)

 ロングセラー商品は、商品に対する信頼感は高いものの、一方で得てして代わり映えしないというイメージを持たれやすい。それだけにブランドの差別化は難しい。

「各種市場調査で『ボンカレーはどんなブランドですか』と質問すると、皆さん『○○の時によく食べた』と思い出を語ってくださるのです。他社製品だと、『○○な味のカレー』とか『具材がゴロゴロしている』などのように製品の特徴や味について回答される方が多い。でも、ボンカレーだけは、『家族と一緒に土曜日に食べた思い出がある』『一人暮らしの時に食べた』『子どもと一緒に食べている』というように、お食事のシーンを話してくださる。お客様の思い出、記憶に残っているブランドという点が特長的だと考えております」(中島氏)

 かつては有名タレントやスポーツ選手を起用した大がかりなテレビCMなどで宣伝してきた。テレビCMは商品名を知ってもらう訴求力は大きいが、内容をじっくり伝えるメディアとして今後はSNSを活用したプロモーション戦略をはじめ、話題を喚起するための施策を次々と打っていきたいとしている。その手法はマスへの宣伝ではなく、まさに消費者とのコミュニケーション戦略である。

誕生55周年を祝う6年ぶりの新商品3点

 大塚食品は7月24日、新商品3つを発売した。「ボンカレーゴールド うま辛にんにく 辛口」「ボンカレーネオ 焦がしにんにく やみつきスパイシー 辛口」「同 スパイシー 後引く辛さ 大辛」だ。21年に「ボンカレークック」と22年に「ボンカレーベジ」が発売されているが、主力の「ボンカレーゴールド・ネオ」シリーズからは6年ぶりの新商品だ。発売時期が夏なのは、カレー商戦の最盛期だからである。

「レトルトに限らず、カレー市場全体として夏がよく売れる季節です。暑くなると、カレーが食べたくなりますよね。子どもや学生は夏休みに入りますし、家庭で簡単に食べられるレトルトやインスタント食品はそういう需要を取り込むことができます」(中島氏)

 今回の新商品3点は、にんにくと辛さを強調した夏らしいラインアップだ。

「ボンカレーブランドなので、辛くて食べられないという辛さではありません。ボンカレーゴールド大辛は辛味順位が『8』とこれまで最高でしたが、新商品のネオスパイシーは『10』です。舌に残るのは痛い辛さではなくヒリヒリする辛さ。唐辛子の辛さだけではなく、食べた後に鼻に抜ける胡椒の香りが楽しめる辛さです。今回、ボンカレーゴールドは、おろしニンニクとフライドガーリックの両方を使っており、生ニンニクほどではないものの、ちょっと下に残るニンニクの味わいを加味しているのが旨辛の特長です」(中島氏)

 直近のレトルトカレー市場は昨年に引き続き堅調に推移している。コロナ禍ではとくに、自宅で料理をする機会が増えたこともあり、簡便性や時短などの魅力からレトルト食品のトライアルユーザーが増加したことが要因の一つと考えられている。

 そして、2013年に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたことを受け、日本食が一大ブームになっている。14年に発表されたJETRO(日本貿易振興機構)の調査でも、「好きな外国料理」の1位に日本食が選ばれ、「外国人観光客が訪日前に期待すること」の1位に食事が挙がるほど、世界中から注目を集めている。カレーライスは洋食というカテゴリーの和食であり、インド料理のカレーとは異なる。大塚食品としては世界戦略についてどう考えているのか。

「カレー業界全体としては日本式のカレーを輸出していこうという流れにあります」(中島氏)

 日本食文化のカレーライスを海外へ広めるために、レトルトカレーは最適な手段とも思われるが、まだまだ様々な面で課題が多いとのことだ。

(文=横山渉/ジャーナリスト)

横山渉/フリージャーナリスト

横山渉/フリージャーナリスト

産経新聞社、日刊工業新聞社、複数の出版社を経て独立。企業取材を得意とし、経済誌を中心に執筆。取材テーマは、政治・経済、環境・エネルギー、健康・医療など。著書に「ニッポンの暴言」(三才ブックス)、「あなたもなれる!コンサルタント独立開業ガイド」(ぱる出版)ほか。

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