総合スーパー・イオンのPB(プライベートブランド)「トップバリュ」のレトルトカレー「ビーフカレー」が78円(税抜き、以下同)で販売されており、破格の安さから「限界突破」などと話題を呼んでいる。その一方、あまりの安さから「味が薄そう」「具が入っていないのでは」「どう作ってるのか気になる」などとクオリティを心配する声も見られる。そこで今回はカレーの専門家に忖度抜きで実食レビューしてもらった。
イオンの業績は好調だ。2023年2月期連結決算は売上高にあたる営業収益が9兆1168億円と過去最高を更新し、営業利益も前期比20%増の2097億円を記録。赤字が続いていた総合スーパー事業も3期ぶりに営業黒字に転換した。そんなイオンの好調を支えるのがPB「トップバリュ」だ。原材料費とエネルギーコストの上昇を受け物価の上昇が続くなか、約5000品目ある商品の大半の価格を据え置き、消費者の購買を誘ったことで売上高は前期比8%増の9025億円と過去最高を記録した。
トップバリュは、毎日の生活に欠かせないオーソドックスな食品や日用品、ファッションアイテムなどを揃えた「トップバリュ」、オーガニックの生鮮食品などを扱う「トップバリュ グリーンアイ」に加え、低価格品が並ぶ「トップバリュベストプライス」、高級志向の高価格帯商品も多い「トップバリュ セレクト」の計4ブランドで構成。たとえば食品では68円の「ロースハム」から1580円の「こだわり仕込み ローストビーフ」まで幅広い価格帯の商品を扱い、食品以外では2980円の「HOME COORDY 温調式オーブントースター」や5万9800円の「HOME COORDY USBカウチソファ」といった家電商品やインテリア商品もラインナップ。ランドセルも2万8000円から6万8000円のものまで取り揃え、幅広いジャンル・価格帯の商品を提供することで多くの消費者から支持されている。
安さを重視するのであれば買ってよい
そんなトップバリュのなかでもひときわ低価格なのが、78円のレトルトの「ビーフカレー」だ。「甘口」「中辛」「辛口」「キーマカレー中辛」の4つのテイストがあり、消費者の財布にはかなり優しいプライスとなっている一方、前述のとおりそのクオリティをめぐってさまざまな声があるのも事実。そこで、カレー研究家で日本野菜ソムリエ協会カレーマイスター養成講座講師のスパイシー丸山氏に「中辛」「辛口」「キーマカレー」の3種類を実食レビューをしてもらった。
「3種類とも想定の範囲内の味で『78円の味』というのが率直な感想。中辛はいわゆるジャパニーズスタイルのカレーで、香りとコクは控えめ、レトルトカレー特有のレトルト臭が少しするもののそこまで強くはなく、まあまあの美味しさのカレーといえる。具材はジャガイモがメインで牛肉とにんじんは少しで、具材感もそこそこという印象。ただ、自分だったらプラス20円出してハウス食品の『咖喱屋カレー』を選ぶだろう。辛口も基本的には中辛と同様だが、ピリッとした辛さが強い分、味のインパクトがあって中辛よりも美味しく感じた。
一方、キーマカレーは以前は少し強かったレトルト臭が弱まり改善されている。肉はそれなりの量が入っており、香りが立ったスパイシー感があり、なかなか良い」
では78円という価格を考慮すると、金額に見合うクオリティだと評価してよいか。
「十分に美味しいし具材感もあるので、安さを重視するのであれば買ってよいといえる。また内容量も重要なポイントで、咖喱屋カレーが180gなのに対しトップバリュの中辛と辛口は200gとなっており、安いうえにお得感がある。ちなみにキーマカレーはトップバリュも咖喱屋カレーもともに150g。
逆に咖喱屋カレーの優位点としては、食べる際の手間の少なさがあげられる。トップバリュは電子レンジで温める際にパウチ袋の中身を容器に移すという手間がかかるが、咖喱屋カレーはそのまま電子レンジに入れて温めることができるのは、大きな差の一つといえるだろう」(丸山氏)
なぜ、これほどの低価格が実現できたのだろうか。
「PB全般にいえることだが、小売り企業との直接取引によりメーカー側としては大量購入が約束されるため、原材料調達・生産のコストを低減することで一商品あたりの価格を割安に抑えて納品することができる。小売り企業としても多額の宣伝・広告費をかける必要がなく、その分、販売価格を抑えられる。また今回の商品固有の事情としては、厚紙の箱に入ったかたちで売られる一般的なレトルトカレーと異なり、箱に入れずパウチ袋のままの状態で陳列している点もコスト削減につながっている。
このほかに大きなポイントとして考えられるのが、製造委託先メーカーの選定だ。中辛の製造元である永谷園フーズはキッズ向けカレー商品で定番商品を持つものの、大人向けのカレー商品で目立ったヒット作がない。辛口とキーマカレーの製造元であるヤマモリもタイカレーで有名だがジャパニーズスタイルのカレーではヒット作がない。大手コンビニ各社のPBカレーはハウス食品とエスビー食品が大半のシェアを占めているなか、イオンという大手のPBで実績をつくれるという点をイオンが価格交渉の材料にした可能性も考えられる。さらにいえば、同じトップバリュのビーフカレーのなかであえてテイストごとにメーカーを別にすることで、価格競争圧力を働かせた面もあるかもしれない。
2020年の新たな食品表示法の施行によりPB商品でもパッケージに製造元企業を明記することが義務付けられ、製造元にもスポットライトが当たりつつある傾向に。その点をイオンはうまく利用していると感じる」
(文=Business Journal編集部、協力=スパイシー丸山/カレー研究家)