コロナ禍で起こったキャンプブーム。なかでも密を避けながら非日常を楽しめるという理由からソロキャンプの人気が高まり、テントや寝袋をはじめとするキャンプグッズがバカ売れ。キャンプ用品を販売するメーカーの売上はグッと上がった。
ところが、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行し、旅行やイベントに対する制限が解除されるとブームが下火となり、リサイクルショップやフリマアプリにキャンプ用品を売る人が増えた。それに呼応するかのようにキャンプ用品を販売する大手メーカー、スノーピークが2023年12月期の業績予想を下方修正。売上高を360億円から278億円に、営業利益を50億円から10億円に、純利益を28億円から6億円に変更した。
収益が減少するメーカーがある一方で、ザ・ノース・フェイスなど、業績が堅調なアウトドアメーカーも存在する。キャンプ用品業界で起きている減収組と堅調組の差はどこにあるのか。流通ジャーナリストの西川立一氏に話を聞いた。
「簡単に言ってしまうと、ウェアなどのキャンプ以外の場面でも活用できるアイテムを販売するメーカーが堅調で、キャンプ用品を中心に販売するゴリゴリのメーカーは業績が下がっている、ということです」(西川氏)
確かに、スノーピークのオンラインショップのページを見ると、テントや調理器具がずらりと並び、服はスウェット2種類とカーディガン1種類、ベスト1種類、パンツ1種類。ザ・ノース・フェイスのオンラインストアのページは、トップス、ボトムス、スイムウェア、アンダーウェア、アクセサリー、バッグの項目の後にようやくテントなどの商品を扱う「ギア」の項目がある。
「コロナをきっかけに急にブームとなったので、生産が追いつかなかったのでしょう。そして、ようやく商品を届けられる体制となったところでブームが終わって販売先も仕入れを抑制し、在庫が増えてしまった。テントや専用の調理器具を、キャンプしたい人以外に販売するのは難しいですから」(同)
キャンプにも使えてデザイン性の高い服ならば、アウトレットで販売したら買う人もいるだろうが、ランタンや寝袋は格安で販売してもなかなか買い手がつかないということは容易に想像できる。そうなると、このまま大量の在庫を抱えて倒産するメーカーも出るのだろうか。
「アウトドアのグッズは爆発的に売れるというものではなく、また、まったく売れないというものでもなく、毎年一定の数が確実に売れます。毎年100の売り上げがあるとしたら、今回のブームは急に売り上げが1000になったようなもの。それに対応するために、たくさん商品を作ったら余ってしまったわけです。
しかし、ブームがきっかけとなってキャンプの魅力に目覚めるという人も必ず一定の数現れ、ライフスタイルとしてのキャンプも注目されている。今後も初心者が参入し。趣味の世界は一度ハマると長期間続けるのが一般的なので需要は堅調で、増えていくでしょう」(同)
奥の深い趣味の世界は「沼」と呼ばれている。一度ハマってしまうとなかなか抜け出せないからだ。キャンプの世界も、キャンプする場所はもちろん、季節や一緒に行くメンバーなど、条件が変わることで必要なギアが変わる奥の深い世界。このブームでキャンプを始めた人の中から1%でもハマってくれる人がいれば、業界にとっては大きなプラスになるのだろう。
コロナと同時にキャンプブームも落ち着いた。だが、西川氏は一人で楽しむ「ぼっちキャンプ」が注目されているほか、グランピングなど新しい提案もあり、キャンプ人気は根強く、アウトドア市場も拡大していくと予測する。
「今、ワークマンがアウトドア用品の開発に力を入れています。現在発売しているテントは、個人向けからファミリー向けまで10種類以上。安くて丈夫な商品を開発するワークマンは、ファッション性の高いレディース、ユニセックス商品のブランド『ワークマン女子』を立ち上げて成功しました。そんなメーカーが本腰を入れて安くて丈夫なアウトドア用品を売り出すわけですから、キャンプ業界に大きな変化が起こるはずです」(同)
安くて丈夫なアウトドア用品が手軽に買えるようになれば、宿泊費を安く抑えられるキャンプは、子育てにお金がかかるファミリー層に人気となることが予想される。コロナ禍のようにブームとなったとしても、家族キャンパーも継続組が一定数出て、市場は広がるだろう。
キャンプの世界は「ブームの終焉」=「暗い未来」とはならないようだ。
(文=渡辺雅史/ライター、協力=西川立一/流通ジャーナリスト)