2日に行われた、創業者のジャニー喜多川元社長の問題をめぐるジャニーズ事務所の会見で、質問の指名対象から除外する記者を記した「NG記者リスト」が作成されていた問題で、同事務所は5日、公式サイト上で声明を発表。同日にメディア各社の取材に対し出していた回答に書かれていた「PR会社が、では前半ではなく後半で当てるようにします。と答えました」との文言が「では当てるようにします。と答えました。」と変更され、「では前半ではなく後半で」との記述が削除されているほか、「(編集部追記:当該リストを)私たちは誰も見ておりません」との記述も削除されていることがわかった。このリストを作成した、会見の運営を委託されていた外資系PR会社・FTIコンサルティングは5日、読売新聞の取材に対し、配慮に基づく進行を行うことはジャニーズ事務所側も了承していたと回答。「会見の進め方について同事務所と調整していた」(読売より)とも認めており、ジャニーズ事務所が一部記者の質問回避も含めて、どこまで会見の運営内容を事前に把握していたのかが焦点となりつつある。
2日に東京都内のホテルで行われた会見では、現事務所を被害者補償専門の会社とし、社名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更する一方、タレントのマネジメントと育成を担当する新会社を設立すると発表された(社名は公募)。新会社は、タレントや各グループが設立する会社等とエージェント契約を結ぶ形態をとり、社長には少年隊の東山紀之氏、副社長には井ノ原快彦氏が就任する。注目されていたのが、前社長の藤島ジュリー景子氏による説明だ。今後も100%株主としてジャニーズ事務所の取締役として残留する件や、前回9月7日の会見直後にハワイ旅行に行っていた件などについて、どのような説明がなされるのかが注目されたが、ジュリー氏はこの日の会見を欠席。今後も株式の100%を保有する理由について、「法を超えた補償を行うには、第三者の資本を入れるとできなくなるからです。被害を受けられた方の補償をきちんと最後まで行い、廃業致します」「今の時点で私が100%の株を持っていることが補償についても進みやすい」などと代読された手紙で説明した。
会見をめぐって物議を醸したのが、NG記者リストの存在だ。NHKは5日、質問の指名対象から除外する記者を記したリストを作成していたと報道。会見会場でリストを持つPR会社スタッフの映像も報じられたが、FTIは当初、NHKの取材に対し「契約内容も含めてお答えすることは一切できません」と説明を拒否。一方のジャニーズ事務所はメディア各社の取材に対し、
「会見前々日の会議で、本件について打ち合わせが行われた際、媒体リストを持ってこられて、そこにNGと書いてあったので井ノ原が、『これどういう意味ですか?絶対当てないとダメですよ』と言いました。するとPR会社が、では前半ではなく後半で当てるようにします。と答えました」(5日付サンケイスポーツ記事より)
「今回流出した資料は、弊社の関係者は誰も関与しておりません。見てもおりません」(同)
「この外資系PR会社にこのことを謝罪してほしいとお願いしましたが、外資なので本国の許可が必要で調整に時間がかかると言われました」(同)
と回答。さらに同日には公式サイト上でコメントを発表したのだが、前述のとおりメディア向けの回答にあった一部記述が削除、変更されていることが発覚。さらにFTIは、配慮に基づく進行は同事務所側も了承していたとコメントしたことで、同事務所の説明の信憑性に疑問が寄せられる事態になっている。
ノウハウ不足のPR会社を使ってしまった事務所の不運
広告会社関係者はいう。
「PR会社が『会見の前半ではなく後半で当てるようにします』と答えた、という部分を削除したのは、『会見の前半では当てない』旨を事務所側も了承していたと受け取られることを懸念したためでは。また、事務所側がリストを見ていないなら、PR会社にそのリストを使わないように求めることはできないので、『見ていない』というのは嘘になるということで訂正したのかもしれない。もしくは、『事前打ち合わせの際には、NG記者の名前を文字だけで列記した簡易的なリストは見せられたものの、会見で実際に使用された写真付きのリストの現物は見ていない』という意味だったのかもしれない。
ただ疑問なのは、PR会社がクライアント企業から『そういうことは、しないでください』と明確に伝えられたことを、その意向に反してやるというのは、通常ではあり得ない。PR会社が『進行内容は事務所側も了承していた』と暗にリストについて事務所側も黙認していたかのような言い回しをしているところをみると、腑に落ちない部分がある」
また、PR会社関係者はいう。
「クライアント企業がPR会社に対し『会見でこのメディアとこの記者はあてないで』と伝え、PR会社がNG記者リストを作成することは普通にある。道義的な問題はさておき、企業としては安くないコストをかけて会見を行う以上、自社にとって不利益な事態が起きることを避けるのは当たり前。ただ、そのリストを報道陣から丸見えの状態で会場に持ち込むというのは、PR会社としては杜撰を通り越して、ちょっとあり得ない失態だ。また、メディアの取材に対し、ジャニーズ事務所側に責任の一端をなすりつけるようなコメントをするとは、普通のPR会社ではない。今回の件に限っていえば、ノウハウ不足のPR会社を使ってしまった事務所の運が悪かった」
専門家の見解
危機管理・広報コンサルタントで、長年、企業・自治体の管理職向けに模擬緊急記者会見トレーニングや研修・セミナーの講師なども手掛けてきた平能哲也氏はいう(5日付当サイト記事より)。
「2回の会見自体への評価としては、謝罪会見にしては珍しいほど合格点に近い。1回目での社名変更しない点は私も批判的だったが、東山氏、井ノ原氏、ジュリー氏(今回は欠席)は記者の厳しい質問に対して真摯かつ率直に答えており、様子が乱れたり声を荒げたりするような場面もなく、特段に問題は見られなかった。企業等の酷い謝罪会見をこれまでどれほど見てきたことか。
NG記者リストに関するジャニーズ事務所の否定コメントを読む限り、事務所が指示したとは考えにくい。一方、FTI側が、クライアントである事務所に忖度して、サービスだという意識でこのような行為を行った可能性は十分に考えられる。批判的な質問が出ないままスムーズに会見を終えることで事務所から評価されて、今後の継続的な取引につなげたいと考えてもおかしくはない。
もっとも、記者の顔写真までのせたリストを、証拠が残ってしまう書面で作成し、さらに報道陣から見えるかたちで会場に持ち込むというのは、コンサルティング会社やPR会社の情報セキュリティ感覚としては信じられない。もしその事実が公になればどのような事態を招くのかということへのイマジネーションが欠落している。危機管理(広報)意識の欠如そのものだ。
もし私がアドバイスを求められていたら、こんなリストは作らず逆に厳しい質問が予想される記者を先に指名して発言してもらう。前回の会見のように長い主張や質問が続けば『この後、多くの記者の方が質問を待っているので簡潔に願います』と司会が言えばよい」
FTIコンサルティングはアメリカに本社を置きグルーバルに拠点を展開するコンサルファームであり、同社のHPには次のように書かれている。
<グローバルビジネスアドバイザリーファームとして、M&Aや事業再編あるいは訴訟等をはじめとする経営上の重要課題に対するサポートの提供を行い、グローバルビジネスにおける企業価値向上を支援します。 業務デューデリジェンス、ビジネスインテリジェンスをはじめ、不正行為調査、コンピュータフォレンジック、Eディスカバリー、知的財産権保護コンサルティングあるいはクライシスコンサルティングをはじめとする、幅広いビジネスリスクに対するソリューションを提供します>
(文=Business Journal編集部)