上場企業の2023年4~12月期は好調な決算が相次いでいる。SMBC日興証券の集計では、東証株価指数(TOPIX)採用企業のうち、7日までに決算発表を行った786社(開示率55%)の半数超で前年同期より純利益が増加した。目立つのは値上げによる採算の改善で、今後は好業績が賃上げに反映され、消費拡大を通じて経済の好循環につなげられるかが焦点となる。
◇値上げや円安追い風
SMBC日興によると、23年4~12月期の純利益が増加したのは455社と、決算開示済みのTOPIX採用企業の6割弱に上る。通期予想を上方修正した企業も154社と、下方修正した78社を大幅に上回り、「純利益予想の合計は過去最高を更新するペースだ。前期からの業績回復基調が続いている」(安田光チーフ株式ストラテジスト)という。
業績回復をけん引したのは、自動車や機械など製造業で、開示済みの364社の純利益は合計で2割増加した。特にグローバル企業は堅調な米国経済を背景に利益が拡大。トヨタ自動車は、グループ企業の認証不正の影響で通期の販売台数見込みを下方修正したが、4~12月期の営業利益と純利益はいずれも日本企業として過去最高を更新した。海外での値上げや円安も寄与し、通期純利益が初めて4兆円に乗る見通しだ。
海外を中心とする市場金利の上昇や資源高の一服も追い風となった。利ざやの改善で三菱UFJフィナンシャル・グループなど3メガバンクは純利益が65.4%増加。電力業界では値上げの効果や、液化天然ガス(LNG)価格高騰が落ち着いたことで関西電力など8社が過去最高益を更新した。
国内では、コロナ禍からの旅行やインバウンド(訪日客)復活で鉄道や航空各社の収益が拡大。日本航空の斎藤祐二専務は「コロナ前の19年よりも高い収益を達成できた」と手応えを示した。
◇ボールは経営側に
好業績を受け、賃上げの加速に期待が高まる。全事業が増収増益だった三菱重工業の小沢寿人常務は「業績改善には生産性向上の寄与が含まれる。賃金に一定程度還元すべきだ」と強調。純利益が2割増のみずほフィナンシャルグループは7%程度の賃上げを目指す。半導体市場の回復が遅れ、通期純利益予想を下方修正した京セラの谷本秀夫社長は「業績は芳しくなかったが全体平均で5%程度は上げないといけない」と述べた。
野村証券の小高貴久シニア・ストラテジストは「足元で企業の利益拡大が続き、人件費に回せる環境が整ってきた。賃上げの実行は経営者の判断次第だ」と指摘する。政府が掲げるデフレからの完全脱却のカギを握る中小企業への賃上げ波及を巡っても「大企業が中小企業による取引価格の改善要請を受け入れ、恩恵が広がる地合いはできている」(外資系運用会社)との声が聞かれた。
一方、不動産不況が続く中国経済の停滞は先行きに影を落とし、製造業中心に既に影響が出ている。電気自動車(EV)市場の価格下落を受け、ニデックは採算性改善のため関連部品事業に約450億円の構造改革費用を計上し、通期利益予想を下方修正。旭化成は中国での化学品の需要減を営業減益の一因とした。
◇23年4~12月期決算会見での主な経営者発言
▽トヨタ自動車の宮崎洋一副社長
北米を中心に値引きをせずに販売ができた
▽日本航空の斎藤祐二専務
国内・国際路線ともに旅客需要を着実に取り込み、コロナ前の2019年よりも高い収益を達成
▽三菱重工業の小沢寿人常務
業績改善には生産性向上の寄与が含まれる。賃金に一定程度還元すべきだ
▽京セラの谷本秀夫社長
業績は芳しくなかったが、(賃金は)全体平均で5%程度は上げないといけない。若手の方が上昇率は高くなる
▽関西電力の田中徹執行役常務
賃上げは社会的機運どころか潮流になっている
▽コニカミノルタの大幸利充社長
必要な人材を確保しないといけない。定期昇給に加えベースアップ含めた賃上げをどうにかやっていきたい
▽ニデックの永守重信会長
(電気自動車部品について)競争相手も自分のところもお客さんも全部赤字。50年間会社経営をしているが、こんなことは初めて
(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2024/02/08-19:32)