勤務時間中に新入社員から突然「BeReal.(ビーリアル)の通知が来たので撮ってもいいですか?」と聞かれ言葉を失ったという、X(旧Twitter)上に投稿された体験談が話題を呼んでいる。社会人経験の浅い新入社員の非常識な言動に驚いた経験がある人は少なくないだろうが、“今どきの新入社員”にはどのような傾向・特徴があるのだろうか。複数の体験談をもとに考察してみたい。
ここ数年、あらゆる業界で人手不足が生じていることもあり、新卒採用シーンは売り手市場、つまり学生が就職しやすい状況が続いている。日本経済新聞社の調査によれば、主要企業の大卒内定者(2024年春入社)は前年の入社数に比べ7.4%増。日経リサーチの「2024年春入社の新卒採用計画調査(1次集計)」によれば、24年春の大卒採用計画は23年春の実績見込み比で21.6%増となっていた。採用しにくい状況を受け、企業側は一斉に初任給の引き上げに動いており、今年4月から従来より2割ほど引き上げるケースは珍しくない。これまで黙っていても優秀な人材が集まっていた人気業種も例外ではなく、みずほ銀行は24年春から初任給を従来より5万5000円引き上げ26万円に。伊藤忠商事は5万円引き上げ、大学卒の総合職で30万円を超えた模様。
「ここ20年ほどの間、新卒採用市場は売り手になっているとはいわれるものの、人気の高い有名大企業を含めて複数の企業から内定を取る学生と、取れない学生が二極化している。人気企業の採用は以前として倍率が高く競争が激しく、“優秀じゃない学生も採用される”という状況にはまったくなっていない。依然として優秀な人材は企業の間で取り合いになっている一方、どこにも受からない学生も一定数存在する。その意味では、実態は今も昔もそれほど変わっていない」(人事コンサルタント)
1990年前半から2000年代後半の就職氷河期に比べ“就職しやすくなった”ことが影響しているのかどうかは定かではないが、SNS上では新入社員の非常識な言動に関する投稿も少なくない。少し前には前述のBeReal.(通知が来て2分以内に写真を投稿すれば友達の写真を見ることができるSNS)をめぐるエピソードがSNS上に投稿され、さまざまな反応が寄せられていた。
毎年、数名程度の新卒採用を行っている企業の部長はいう。
「ウチは有名大企業のグループ会社ということもあり、それなりに応募倍率も高いため、驚くほど非常識な新人というのはあまり入ってこないが、数年に一人くらいはヤバい子がいる。数年前にアメリカの大学を出て入って来た子は、もともとは別の職種の仕事に就きたかったが、希望の会社に入れずウチに入ったというパターン。上司や周囲の言うことを聞かず、まなじ専門知識だけは持っているのでしょっちゅう反論してくるし、“私のやる仕事じゃない”という態度を見せてくる。社内でだけならまだしも、客先に遅刻して来て名刺も忘れてきても謝らず、注意してもピンと来てない様子で社会人マナーもダメ。結局、1年ちょっとで辞めてくれてホッとした。
このように反抗的で尖ったタイプの新人が、仕事にもまれて角が取れて丸くなり、数年たつとすごく優秀な人材になるというケースは割とあるし、過去の経験からそれなりに反抗的な新人の扱いには慣れているので大丈夫なのだが、単に非常識だけという子は会社にとっても抱えておくのは損なので、できるだけ辞めてもらう方向に持っていく。面接ではみんな猫をかぶっており、猫をかぶることすらできない子は採用されない。実際に入社して働かせてみないと分からない面がある」
デジタル系企業の40代社員はいう。
「会社支給のPCを自宅に忘れて来たり、緊急時に必要となる業務用の携帯電話を会社に置いて帰ったりというレベルは、まだ可愛いほう。指示した仕事をきちんとやらない子がいて、目に余るため注意したら『会社のホットラインに通報する』『不当に残業を強いられている』とか言い出して、さすがに私もキレた」
逆に自己主張がなさすぎる子も困りものだという。
「言われたことには何でも素直にハイハイ言うし、ミスしたり注意を受けるとすぐ『すみません!』と謝ってくるのはいいのだが、何も考えずに条件反射的に言っている様子で、自分で考えて行動してくれない。素直なのは良いのだが、ちゃんと成長してくれるのか心配になってしまう」(40代メーカー課長)
「ここ数年、こちらから仕事を振ったり指示しないとボーっとしている子が増えた気がする。自分のタスクやノルマを達成できていなくても焦りもせず、マズいという感覚すら持てない子も多い。できなくてもヘラヘラしているので、何をどう注意すればよいのかわからなくて困る」(サービス企業役員)
IT系企業の30代社員はいう。
「明らかにやる気がなくてパフォーマンスが低い子がいて、それでもなんとかヤル気を出させて人材として活かそうと思い、別の仕事を私が考えて『こういう仕事ならやれそうかな?』と優しく提案したところ、『ちょっと、やりたくないですね』と言われ言葉を失った。私の中で『あ、もう子の子はどうしようもないな』と見切りをつけて、なんとか自分から会社を辞めると言わせることに成功した。私自身もそうだったように新人なんて何もできないのは当たり前なので、ヤル気さえあれば全然面倒を見ることに抵抗はないが、ヤル気がない子はどうしようもないというのが、ここ数年で私が至った結論だ」
若手社員に対する過保護
採用難を受けて会社が若手社員に対し過保護になり過ぎている弊害が出ているとの声もある。
「ウチの会社は少し前から1~3年目くらいの社員一人につくメンターを1人から2人に増やした。新人の教育係を任される際に人事部からは『今の新人は何もできないと考えてください。なので“こんなこともできないの?”などとは絶対に言わないでください』と禁句ワードを伝えられる。新人は会社から“お客さん扱い”されるのに慣れてしまい、自分で考えて動いて利益を上げなければならないという意識が希薄だと感じることがある。どれほど過保護にしても絶対に3年以内に辞める子というのは出てくるので、過保護になりすぎるのも問題では。
また、新人に限らず課長職より下の社員には20時以降は残業させてはダメとなっており、結果的にそのしわ寄せが管理職にきて私の残業が増える羽目になっている。長時間残業が常態化するのはよくないが、処理能力を超えるほどの量の仕事をこなす経験を何度もしないと成長できないと思うので、逆に心配になってくる」(広告会社・40代管理職)
「優秀な若手とそうじゃない若手の格差が大きくなっている。大学在籍時から積極的にインターンに参加しているような子のなかには『キミは社会人何年目?』というくらい、しっかりとした子がいる。また、将来設計を立てて自発的にビジネス能力検定試験を受けたり、スクールに通って勉強する子もいるが、そういう若手は男性より女性が多い」(IT企業・40代社員)
採用方針を変える企業も出ているようだ。
「ここ数年、体育大学卒と芸術大学卒を採るようになった。体育大学卒の子はとにかく真面目で素直。専門知識やビジネスに関する知識・スキルがないので戦力になるまで時間がかかるが、少なくてもお客さんや社内の人を不快にさせることはない。言われたタスクは絶対に成し遂げようとするし、『これを勉強しろ』と言うとちゃんと勉強するので、速いスピードで成長する子もいる。対照的に芸術大学卒の子には、自我が強くて上司に言われたことに素直に従わない傾向がある子もなかにはいるが、芸大系の子はビジネスデザイン力に長けているという印象が強い。今はビジネスもデザイン力が重要なので、芸大卒の子は結構ビジネスと相性が良いと感じる」(マーケティング会社管理職)
(文=Business Journal編集部)