ビジネスジャーナル > 企業ニュース > シャウエッセン、高くても売れるワケ
NEW

一般的な価格の2倍でもシェア1位…シャウエッセン、高くても売れる巧妙な戦略

文=大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授
シャウエッセン
シャウエッセン公式サイトより

 スーパーに行くたびに気になっていたウインナー「シャウエッセン」。なぜ高価格でありながら長きにわたり売れ続けているのだろうか。徹底的にこだわった本物のソーセージを消費者に買ってもらうために、一般的なマーケティングとは異なる手法をとっていることがわかる。

 昨年放送されたテレビ番組『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)にて、日本ハムの代表取締役社長である井川伸久氏がシャウエッセンについて語っていた。また、日本ハムのホームページでもシャウエッセンの歴史や特徴に関する説明があり、こうした情報をもとに、高価格でありながら好調な販売を持続するシャウエッセンの秘密、さらにはウインナーの枠を超え、低価格競争を回避するマーケティングの一般化に関して検討していく。

シャウエッセンの販売状況

 全国のドラッグストア、スーパーマーケットなどの消費者購買情報(ID-POSデータ)を提供するウレコンのデータ「畜肉ソーセージ(2023年12月~2024年02月)」によると、販売シェア1位はシャウエッセン(362円:117g×2パック)であり20%となっている。1g当たりの価格に注目すると、シャウエッセンは1.54円、一般的な徳用ウインナーは0.8円程度であり、シャウエッセンは概ね2倍程度の価格であるものの、市場シェア2割をキープしている。販売における低価格の重要さがしきりに強調される現代の市場環境において、企業に大きな利益をもたらす稀有な商品であるといえる。

 シャウエッセンの誕生は1985年にまで遡る。当時の日本において、ウインナーといえば赤い魚肉のものが主流であった。こうした状況において、日本ハムは「日本にいながら、繊細な日本人の舌に合った本格的ドイツ風ウインナーが食べられたら」と考え、重要な3つのポイントを発見している。

(1)皮には天然の羊の腸を使う(当時はコラーゲンなどによる人工の皮が主流だった)
(2)原料は豚肉100%、しかもあらびき肉で風味を生かす
(3)本場ドイツウインナーに習い、程よくスモークし、豊かな薫りを引き出す

 さらに、隠し味として水飴が使われている。ドイツではビールのつまみとして食される場合が多いため、塩気が強い。一方、日本では“ごはんのおかず”という位置づけゆえ、日本市場に適した商品の適応化が行われている。

 ちなみに、シャウエッセンという商品名の由来は、ドイツ語の“シャウ”(観る)と“エッセン”(食べ物)の合成語となっている。

消費者教育とプロモーション

 このように徹底的にこだわった本物のソーセージを消費者においしく食してもらうために、日本ハムは食べ方にもこだわった。当時の日本では、ソーセージといえば焼くものであったが、本来の風味や食感を味わってもらうため、本場ドイツ同様、茹でることを強く推奨した。電子レンジの使用すら禁止するという徹底ぶりであった。

 こうして満を持して発売したものの、当初の売り上げは芳しくなかった。価格が高かったことに加え、羊の腸の皮を敬遠する消費者が多かった。そこで、当時は珍しかったスーパーでの試食販売に着手し、消費者に味、食感、パリッとした音を体感させた。さらに、テレビCMを展開し、「美味なる物には音がある!」というコピーを広め、発売翌年には売上260億円を達成している。

 トップシェアを誇るシャウエッセンではあるが、成長という視点でとらえると、一時、停滞気味になっていた。多くのロングセラー商品に共通することだが、主たる顧客層が50代以上と高齢化する一方、若者をうまくとりこめていなかったのだ。そこで、何か抜本的かつ斬新な取り組みが求められていた。

 しかし、会社にとって極めて重要な看板商品であるシャウエッセンは、長きにわたり「伝統を守る」という極めて保守的に管理されていた。社内には「切ってはいけない、焼いてはいけない、違う味を出してはいけない」といった“シャウエッセンの掟”があり、厳格に守られてきた。

 こうした状況に対して、井川社長は大胆な改革を進めた。まず、スライスしたシャウエッセンを載せた“シャウエッセンピザ”を発売。また、ホットチリやチーズなど、新たなテイストが加えられた。またウインナーのサイズのバリエーションも拡げた。さらには、これまで禁止していた電子レンジでの調理も解禁するという徹底ぶりであった。こうした施策に対して、開発に携わったOBたちを中心に大きな反発があったが、井川社長は何よりもチャレンジすることが重要であるとの考えのもと、粘り強く理解を求めていった。

低価格競争を回避する商品の開発

 マーケティングは顧客を満足させる全社的取り組みと捉えることができ、そのためにマーケティングリサーチ(市場調査)を実施し、消費者のニーズを明確化させ、そうしたニーズに応える商品の開発が一般に広く行われている。もちろん、こうした考えやプロセスの重要性は認めるものの、低価格競争の回避において重要なポイントとなる他社との差別化に対して有効に機能するとは考え難い。なぜなら、どの企業も消費者のニーズという類似した情報のもと、新製品開発に着手することになり、結果として同質化した製品が開発されてしまうためである。

 1980年代の日本において、「本格的ドイツ風ウインナーを食べたい」といったニーズは、決して多くはなかったであろう。また、当時、業界には“300円の壁”(消費者はウインナーに300円以上は支払わない)というものがあり、少なくとも大手企業が着手する価格帯ではないと考えられていた。

 よって、マーケティングリサーチを実施し、消費者ニーズを収集していればシャウエッセンは誕生していないだろう。概ね、「よりおいしい魚肉ウインナー」や「より手ごろな価格のウインナー」などにとどまっていたはずだ。「繊細な日本人の舌に合った本格的ドイツ風ウインナーを開発したい、そして日本の消費者に食べさせたい」というシンプルな作り手の思いにより、唯一無二の商品は誕生している。

 価格は当時の常識である300円を大きく上回ったが、それだけの価値があると消費者を納得させる商品開発、プロモーションに見事に成功している。さらには、顧客に手間のかかる調理法である“茹でる”ことを強要している。

 こうしたシャウエッセンの取り組みは、「顧客を満足させるのではなく、新たな価値を創造し、顧客に認めさせるという“顧客への挑戦”こそが脱・低価格競争への有効な処方箋になり得る」と教えてくれる。

(文=大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

一般的な価格の2倍でもシェア1位…シャウエッセン、高くても売れる巧妙な戦略のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!