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農林中金、巨額損失→JAが救済の繰り返しに「何回救済すればいいの?」の声

文=Business Journal編集部、協力=佐々木悠/つばめ投資顧問アナリスト
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農林中央金庫が所在する「Otemachi Oneタワー」(「Wikipedia」より/VVVN)

 農林中央金庫は5月22日、2025年3月期は5000億円超の最終赤字になる見通しだと発表した。保有債券の収益悪化が主な原因だが、同社の運用資産の構成では債券が5割を超える一方、株式はわずか3%となっており、その構成に疑問も寄せられている。また、農林中金は過去にも運用で巨額の損失を出し、JAを引受先として1.9兆円の資本増強をしたことがあるため、SNS上では「農中は何回救済すりゃいいの?」「やらかしを繰り返してる」「運用が下手?」といった声もあがっている。背景に何があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 預金残高ベースで、ゆうちょ銀行、メガバンクに次ぐ規模を誇る農林中金。その事業形態は他の銀行と大きく異なる。つばめ投資顧問アナリストの佐々木悠氏はいう。

「農林中金は、一般の人が直接関わることは少ない金融機関です。分類上は銀行となりますが、銀行というからには、お金を調達し預かったお金を運用しています。農林中金の資金調達の仕組みは、全国に広がるJAバンクの預金を預かり、そのお金を運用しているのです」

 JAグループの構造は特徴的だ。JAとは農業協同組合、いわゆる農協の呼称であり、組合員である農家向けに農業技術の指導をしたり、農業生産に必要な肥料や農薬などの資材を共同で購入したり、農畜産物を共同で販売したりしている。このほか、貯金、共済、住宅ローンや教育ローンなどのローン、融資などの信用事業や、生命、建物、自動車などの共済事業も行っている。共済とは保険のことであり、JA共済連(全共連)が仕組開発、審査、査定、資産運用などを担当。各地のJAがJA共済の取り扱い窓口となっている。

「農家向けの結婚相談センターを設けたり、駐車場を運営したり、賃貸住宅の紹介をしたり、年金や葬儀の相談を受けているJAもあり、その業務範囲は本当に広い」(自治体職員/4月1日付当サイト記事より)

 JAグループはJA共済連のほか、JAグループの総合指導機関であるJA全中、農家への技術・経営指導、資材供給や共同利用施設の設置、農畜産物の運搬・加工・貯蔵・販売などを行うJA全農などで構成。JA・JF(漁業協同組合)からの出資や企業からの預金、JA・JFを通じて個人から預かった資金を運用するのが農林中央金庫だ。ちなみに「JAバンク」とは、JA、農林中金とその都道府県組織であるJA信連から構成されるグループの名称である。

 農林中金が他の銀行と大きく異なる点は、資産のうち貸出金が占める割合が約2割と低い一方、有価証券が4割を超え高い点だ。企業などへ幅広く融資が可能な銀行と異なり、農林中金の投融資先は農業関連に限定されるためだ。その一方でJAグループ各社を通じて農業関連従事者から集まる預金は約64兆円と、メガバンクの三菱UFJ銀行の約3分の1の規模であり、融資業務で大きく利益をあげられないなか、資産を運用して利益をあげ、預金を預けるJAグループ各社に「奨励金」と呼ばれる上乗せ金利を還元しなければならないという事情を抱えている。

運用金利が借入金利を下回る「逆ザヤ」状態

 なぜ農林中金は運用で巨額損失を生じさせたのか。前出・佐々木氏はいう。

「農林中金の運用の中心が外国債券や日本国債だったわけですが、債券には金利が上がると価格が下がるという特徴があります。特にアメリカでは、コロナ禍で金利を大幅に引き下げていました。しかし、昨今のインフレの抑制に向けて0%から約5%前後まで一気に金利を引き上げました。この金利上昇の影響で、市場で債券を売った場合の価格が下がってしまうのです。

 外国債券(株式も含む)を運用している方なら『円安の恩恵で損失が目減りするのでは?』と思われるでしょう。しかし金融機関の債券取引は基本的には為替リスクを抑えるため為替ヘッジが行われていますから、円安による為替差益はないのです。とはいえ、債券が含み損になったとしても債券を満期まで保有し続ければ(債券発行体に問題がないか限り)元本が手元に戻ります。さらに、市場金利よりは安いかもしれませんが、金利収入もあることから、無理に売る必要もないのです。

 それでも農林中金は債券を売却し実現損として損失を計上するのです。それには、JAバンクから資金を調達していることが関係しています。農林中金はJAバンクの預金を再度預かっていることから、円建てで資金調達をしています。そこからドル建てで資産運用するためには、ドルを借りて為替をヘッジする必要があります。ドルを借りる際の金利も市場金利に連動していることから、借入金利も高くなっています。一方で、運用している債券の金利は低いままなので、運用金利が借入金利を下回る『逆ザヤ』状態になるのです。そこで、金利が安い時(価格が高い時)に買った債券を売却することで、逆ザヤ状態を抜け出すために債券売却の判断に至ったのです」

債券に偏りすぎた運用

 注目されているのが農林中金の運用資産構成だ。債券が5割を超える一方、株式はわずか3%となっている点について、一部ネット上では以下のように疑問の声があがっている。

<株と債権どっちにもヘッジしてバランス取るのが普通なんだが。特にアメリカ株は天井近いし>

<近年の相場で損するって素人でも難しい>

<この時合でマイナス出すとか絶望的にセンスない>

<この相場で海外投資してどうやって負けられるの>

<空前の株高なのに>

 この運用資産構成をどう評価すべきか。

「短い間に大幅に金利が上昇したことが損失の原因ですが、多くの金融機関にとって想定外の事態だったと考えます。一方で、メガバンクや日本最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は株式も運用しながら、債券の損失をカバーしています。今後の農林中金は債券に偏りすぎた運用を見直し、株式などもバランスよく運用ポートフォリオに加える動きになる可能性があります」(佐々木氏)

 過去の大きな失敗も影響しているという見方もある。

「2008年のリーマンショックの際に農林中金は米国の低所得者向け住宅ローン投資で巨額の損失を出し、その年度の決算は5000億円超の最終赤字となった(09年3月期)。今回の債券の含み損による赤字を受けて農林中金はJAを引受先として1.2兆円の資本増強を行うとしているが、リーマンのときもJAを引受先として1.9兆円の資本増強をした。この失敗を受けて変動リスクが高いとされる株式を減らし、低リスクとされる米国債をはじめとする海外債券を増やしたが、あまりに極端なポートフォリオになって高金利に耐えられない資産構成になってしまった。そこに世界的な金融緩和の縮小による金利上昇が始まり、火を噴いたということ。

 組織の性格的に幅広く企業への投融資ができないなかで、預金で集まった巨額の資産を運用してなんとか一定の利回りを確保しなければならないという特殊事情を抱えていることは理解できるものの、素人的との誹(そし)りは免れないだろう」(メガバンク行員)

 農林中金はリーマンショックの以前にも、運用が問題視されたことがある。1995年の住宅金融専門会社(住専)問題では、農林中金をはじめとする農林系金融機関から5兆円以上の資金が住専に入り、住専がそれにより不動産融資を拡大させ、生じた8兆4000億円に上る不良債権の処理のために6850億円の公的資金が投入された。当時、農林中金の無責任な投資による損失を穴埋めし、さらに農協を保護するために多額の税金が投じられたとの批判がわきあがった。そのため、ネット上では

<農中は何回救済すりゃいいの?>

<住専にリーマンショックで今回と10~15年に1回ペースで兆円規模のやらかしを繰り返してる>

といった声もあがっている。

(文=Business Journal編集部、協力=佐々木悠/つばめ投資顧問アナリスト)

佐々木悠/つばめ投資顧問アナリスト

佐々木悠/つばめ投資顧問アナリスト

東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。現在はアナリストとして企業分析や資産形成に関する記事を執筆。会員サイトでは投資に限らず、住宅ローンや資産形成プランなどについてサポートを行っている。
つばめ投資の公式サイト

Twitter:@s_h_tsubame

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