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「農家から預かった資金を溶かす」農林中金、また資産運用失敗で1.5兆円赤字

文=Business Journal編集部
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農林中央金庫が所在する「Otemachi Oneタワー」(「Wikipedia」より/VVVN)

 農林中央金庫は19日、2025年3月期は約1兆5000億円の最終赤字になる見通しだと発表した。先月に公表していた赤字額より約1兆円膨らむ。保有債券の収益悪化が主な原因だが、同社の運用資産の構成では外国債券が約4割である一方、株式はわずか2%となっており、偏ったポートフォリオに疑問も根強い。「農業関連従事者から集めた資金を“溶かしている”」との声もあるが、農林中金は過去にも運用の失敗で巨額の損失を出しJAを引受先として資本増強をしており、将来また同じ失敗を繰り返すのではないかとの懸念も聞かれる。

 農林中金は5月、米国債など保有債券の売却で多額の含み損が発生し、25年3月期は5000億円超の最終赤字になる見通しだと発表していた。

「農林中金の運用の中心が外国債券や日本国債だったわけですが、債券には金利が上がると価格が下がるという特徴があります。特にアメリカでは、コロナ禍で金利を大幅に引き下げていました。しかし、昨今のインフレの抑制に向けて0%から約5%前後まで一気に金利を引き上げました。この金利上昇の影響で、市場で債券を売った場合の価格が下がってしまうのです。

 外国債券(株式も含む)を運用している方なら『円安の恩恵で損失が目減りするのでは?』と思われるでしょう。しかし金融機関の債券取引は基本的には為替リスクを抑えるため為替ヘッジが行われていますから、円安による為替差益はないのです。とはいえ、債券が含み損になったとしても債券を満期まで保有し続ければ(債券発行体に問題がない限り)元本が手元に戻ります。さらに、市場金利よりは安いかもしれませんが、金利収入もあることから、無理に売る必要もないのです。

 それでも農林中金は債券を売却し実現損として損失を計上するのです。それには、JAバンクから資金を調達していることが関係しています。農林中金はJAバンクの預金を再度預かっていることから、円建てで資金調達をしています。そこからドル建てで資産運用するためには、ドルを借りて為替をヘッジする必要があります。ドルを借りる際の金利も市場金利に連動していることから、借入金利も高くなっています。一方で、運用している債券の金利は低いままなので、運用金利が借入金利を下回る『逆ザヤ』状態になるのです。そこで、金利が安い時(価格が高い時)に買った債券を売却することで、逆ザヤ状態を抜け出すために債券売却の判断に至ったのです」(佐々木悠/つばめ投資顧問アナリスト/6月4日付当サイト記事より)

 農林中金の3月末時点の債券の含み損は2兆円を超えており、運用資産の入れ替えを検討した結果、当面は欧米債券の金利が現在の高水準のまま推移するとみて、今年度中に計約10兆円の外国債券を売却することを決めた。損失を確定させることで、赤字額は当初見込んでいた額より膨らむ。

「普通に考えると債券の比率を下げて株式などの比率を高めていくことになるが、株式は債券に比べるとリスクは高く、そもそも今のポートフォリオでは2%しかないので、個別株投資のノウハウが十分にあるのかも疑問。企業融資を増やしていくにしても、現在の同社の投融資先は農業関連に限定されるため、こちらもノウハウに乏しい。欧米以外の国の債券も金利が高い分リスクも高く、大きく増やすというのは現実的ではない。組織の特性上、農林中金には巨額の資金が集まっているが、その金額があまりに大きすぎて運用先を見つけるのが難しい状況に陥っている」(資産運用会社ファンドマネージャー)

農林中金からもたらされる奨励金

 預金残高ベースで、ゆうちょ銀行、メガバンクに次ぐ規模を誇る農林中金だが、その成り立ちはやや特殊だ。

 JAとは農業協同組合、いわゆる農協の呼称であり、組合員である農家向けに農業技術の指導をしたり、農業生産に必要な肥料や農薬などの資材を共同で購入したり、農畜産物を共同で販売したりしている。このほか、貯金、共済、住宅ローンや教育ローンなどのローン、融資などの信用事業や、生命、建物、自動車などの共済事業も行っている。共済とは保険のことであり、JA共済連(全共連)が仕組開発、審査、査定、資産運用などを担当。各地のJAがJA共済の取り扱い窓口となっている。

 JAグループはJA共済連のほか、JAグループの総合指導機関であるJA全中、農家への技術・経営指導、資材供給や共同利用施設の設置、農畜産物の運搬・加工・貯蔵・販売などを行うJA全農などで構成。JA・JF(漁業協同組合)からの出資や企業からの預金、JA・JFを通じて個人から預かった資金を運用するのが農林中央金庫だ。ちなみに「JAバンク」とは、JA、農林中金とその都道府県組織であるJA信連から構成されるグループの名称である。

 農林中金が他の銀行と大きく異なる点は、資産のうち貸出金が占める割合が約2割と低い一方、有価証券が4割を超え高い点だ。企業などへ幅広く融資が可能な銀行と異なり、農林中金の投融資先は農業関連に限定されるためだ。その一方でJAグループ各社を通じて農業関連従事者から集まる預金は約64兆円と、メガバンクの三菱UFJ銀行の約3分の1の規模であり、融資業務で大きく利益をあげられないなか、資産を運用して利益をあげ、預金を預けるJAグループ各社に「奨励金」と呼ばれる上乗せ金利を還元しなければならないという事情を抱えている。

「JAグループはとにかく規模が大きく従業員数も膨大なため、農林中金からもたらされる奨励金をあてにしている面もある。農業従事者が減るなかでJAグループの規模は相変わらず大きく、組織を維持するためにさまざまな無理が生じている。今回の損失発生を受けて農林中金はJAを引受先として1.2兆円の資本増強を行うとしているが、リーマンショックのときもJAを引受先として1.9兆円の資本増強をしており、農林中金としては頼みにくい面もあるだろうし、JA側も『またなのか』という感覚だろう」(元JAグループ社員)

組織の規模として大きすぎるJAバンク

 農林中金は08年のリーマンショックの際にも、米国の低所得者向け住宅ローン投資で巨額の損失を出し、09年3月期に約5000億円の最終赤字に転落。JAを引受先として1.9兆円の資本増強を行った。1995年に浮上した住宅金融専門会社(住専)問題では、農林中金をはじめとする農林系金融機関から5兆円以上の資金が住専に入り、住専がそれにより不動産融資を拡大させ、生じた8兆4000億円に上る不良債権の処理のために6850億円の公的資金が投入された。当時、農林中金の無責任な投資による損失を穴埋めし、さらに農協を保護するために多額の税金が投じられたとの批判が出た。

「農林中金は農家をはじめとする農業関連従事者から集めた巨額の資金を、運用の失敗で再三にわたり“溶かしている”といえる。ノウハウ不足は明らかで、今後も数年ごとに同じような失敗を繰り返す可能性が高く、そのたびにJAに泣きつくわけにもいかないだろう。農業関連の資金ニーズの低下を踏まえれば、農林中金を含むJAバンク全体が組織の規模として大きすぎ、スリム化をはじめ抜本的な見直しを迫られている」(元JAグループ社員)

(文=Business Journal編集部)

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