楽天モバイルの契約数増加のスピードが加速し、業界内では「不可能」とまでいわれた黒字化が目前に迫りつつある。その勝因とは何か。専門家や業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
楽天グループ(G)の携帯電話事業が属するモバイルセグメントは赤字が続いている。2024年12月期第1四半期連結決算における営業損益は719億円の赤字、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は297億円の赤字。だが、赤字は改善傾向で、EBITDAの赤字幅は前年同期より337億円縮小している。
業績改善の要因は契約数の増加だ。昨年8月には400万回線台だったが、徐々に増加し今年6月には700万回線台に乗った。楽天モバイルの発表によれば、4~6月の3カ月間の純増契約数は過去最大数となり、4月に650万回線を突破してから2カ月で契約数が50万回線も増加したという。
契約数増の契機となったのが、昨年6月から提供が開始された「Rakuten最強プラン」だ。今年2月には「最強家族プログラム」の提供を開始し、家族でRakuten最強プランに加入すると1回線あたり月額110円の割引が適用されるようになった。5月からはRakuten最強プランの12歳以下の契約者を対象に月間データ利用量が3GB以内であれば楽天ポイントを440ポイント還元する「最強こどもプログラム」の提供を開始。6月には「プラチナバンド」と呼ばれる700MHz帯の商用サービスが開始。現在のRakuten最強プランの月額料金は、データ利用量が3ギガバイトまでは1078円、20ギガバイトまでは2178円、20ギガバイト以上は3278円となっている。
このほか、楽天ポイントの側面からも楽天モバイルの契約数増加のためのアシストを行っている。昨年11月以降に行われている楽天カードのサービス内容改定では、Rakuten最強プランの契約者が楽天市場で買い物する際の付与ポイント倍率は最大4倍から5倍へ引き上げられ、楽天モバイルのキャリア決済を月2000円以上利用すると、その月の楽天市場での買い物で付与されるポイントが+0.5倍から+2倍に、Rakuten Turbo/楽天ひかり契約者の付与ポイント+1倍は+2倍にそれぞれ変更された。
こうした施策で個人の契約を増やす一方、法人向けの「Rakuten最強プラン ビジネス」の契約も増加している。音声通話ありのプランとしては最も安い「国内通話かけ放題+データ3GB+SMS」は月額2178円、「国内通話かけ放題+データ無制限+SMS」は月額3278円となっている。同社の発表によれば、23年1月に法人向けサービスの提供を本格的に開始して1年で1万社以上の法人を獲得したという。
「楽天市場などに加盟する法人に積極的に営業攻勢をかけたり、三木谷浩史会長自らトップ営業をかけたりと、楽天グループは総力をあげて法人契約の獲得に動いている。こうした柔軟性、そしてグループが展開する各種サービスに加盟する多くの企業にアプローチできる点は楽天モバイルの強みだ」(大手キャリア関係者)
質面での信頼性が確立
楽天Gは24年内に携帯電話事業を単月黒字化するという目標を掲げており、そのためには契約数で800万〜1000万件、ARPU(1契約あたりの月間平均収入)で2500〜3000円が必要と同社はみているが、5月には同社は黒字化が目前に迫っていると説明している。
契約数に加えて黒字化のカギとなるARPUをみてみると、24年1〜3月期は前四半期から40円減の1967円。この金額はARPUが低い傾向がある法人ユーザー分が含まれており、一般ユーザーの月間平均データ利用量は前年同期から7.0GB増の24.2GB。月間利用データ量20GB以上の契約回線数は23年5月から10カ月間で41.7%増となっており、これらは将来的にARPUの押し上げ要因となる。
「現在の契約数の伸びを見る限り、年内の黒字化は濃厚といっていい。携帯電話は通信・通話の高い安定性が求められるので、安ければよいというわけにはいかないため、楽天モバイルが始まった当初、業界内では黒字化できるという見方は皆無といってよかった。なので黒字化すれば奇跡が起こったといっていい。他の大手キャリアと比べて安いのは確かで、かつ楽天ポイントのユーザーはメリットが大きいというのもあるが、やはりサービス開始から4年がたち消費者の間で『楽天モバイルでも大丈夫みたいだね』という品質面での信頼性が確立されつつあるという要素が大きいように感じる」(大手キャリア関係者)
他の大手キャリア3社が対抗値下げ?
一方、懸念点もあるという。
「4月には楽天モバイル利用者のSIMが第三者に乗っ取られるという事象が続出する問題があったが、楽天モバイルはさまざまな面でユーザーの登録や操作の手順を簡素化するためにセキュリティがやや甘くなっている部分がある。なので、今後大きなトラブルが生じるようなことがあると、同社の契約数の増加には逆風となる。
また、楽天モバイルへの契約流出が顕著になれば、当然ながら他の大手キャリア3社は静観してはいられなくなり、対抗値下げを行って契約者を奪い取ろうとしてくるだろう。現在の大手3社の利益水準は高く、値下げを敢行するための余力は十分に持っているので、携帯業界で再び値下げ競争が熾烈化する可能性はゼロではない」(大手キャリア関係者)
もっとも、楽天グループは携帯電話事業に参入するために経営的には大きなリスクを背負っている点は見逃せない。同社が携帯事業に投下した資金は累計1兆円以上とみられ、24~25年には、その資金の調達のために発行した社債のうち計約8000億円の償還を迎える。また、資金調達のために、グループ内で利益貢献度が高い楽天銀行や楽天証券ホールディングスなどの金融事業会社の株式の一部を売却し始めており、4月には楽天銀行や楽天証券、楽天カードなどの金融事業を一つのグループにまとめる方針を発表している。そして、楽天Gの成長の源ともされる楽天ポイントサービスに関係する楽天ペイメントを傘下に持つ楽天カードを上場させるとの観測も以前から流れている。
「金融事業を一つにまとめることでグループとして資金調達の道具として活用しやすくなる一方、金融事業との一体経営が弱まるようなことになれば、デメリットも生じる。そうした点も踏まえて長期的な視野でみたときに、たとえ黒字化したとしても携帯事業に乗り出したことが楽天グループ全体にとって良かったのか悪かったのかは評価が難しいところだろう」(大手銀行系ファンドマネージャー)
(文=Business Journal編集部)