15日未明に楽天モバイルで通信障害が発生。一般ユーザによるSNS上への投稿によれば、音声通話と緊急通報、X(旧Twitter)などは使用できる一方、LINEやモバイルPASMOなど一部のアプリが使用できない状況になっていた模様だが、なぜこのような現象が発生したのか。また、楽天モバイルといえば以前から通信の安定性が問題視されることも多いが、他キャリアに比べて劣っているということはあるのか。専門家の見解を交え追ってみたい。
障害が発生したのは15日の未明。SNS上では以下のような声が続出していた。
<楽天モバイル電波障害でLINE不調なん?>
<アプリやら動きが悪い>
<LINEも送れないが配信サイトもクルクルしてみれない>
<モバイルPASMOを開こうとすると開けない>
<PayPayも楽天ペイも普通に使える。LINEは送れないけど>
<YouTubeとかアマプラ見れないしLINEMusicも使えない>
<今ランチで入ったお店のセルフオーダーのQRが表示できなかった>
<Twitterは使える>
同日8時30分に楽天モバイルは公式に『【障害発生】楽天モバイルの一部サービスがご利用できない、またはご利用しづらい状況について』というリリースを発表。それによれば、発生日時と影響エリアは不明で「確認中」。スマートフォンとWi-Fiルーターの「Rakuten最強プラン(データ通信)」、Wi-Fiルーターの「Rakuten Turbo(データ通信)」の一部の利用者において利用できない状況、または利用しづらい状況が発生していた。同社はサポートが必要なユーザーに対し、サポートページの「チャットで問い合わせ」―「チャット相談を利用する」からの問い合わせを呼びかけている。
同日11時30分現在、楽天モバイルから公式に障害復旧のアナウンスはなされていないが、SNS上の情報などを整理すると、以下の現象が起きているようだ。
・音声通話やインターネット利用は問題なし
・アプリ版のLINE、モバイルPASMO、YouTube、LINE MUSIC、Amazon Prime Videoは利用できない(ただしWi-Fiルーター接続だと利用できる)
・Rakuten Linkは利用できない
・PayPay、楽天ペイ、アプリ版のX、Instagramは利用できる
このように一部のアプリのみ利用できないという事象はなぜ発生するのか。ITジャーナリストの山口健太氏はいう。
「楽天モバイルによれば音声通話や緊急通報には影響がなく、SNS上では一部のアプリのみ使えないとの報告が上がっていました。DNSの設定を変えれば解決したとの報告があることから、楽天モバイルのDNSサーバーに何らかの障害が起きていた可能性があります。DNSにはURLなどに含まれるホスト名からIPアドレスを引く役割があるため、正しく機能していないとインターネット上の多くのサービスを利用できなくなります」
Wi-Fiルーター接続だと利用できる理由は何か。
「インターネット利用時には携帯電話のネットワークよりもWi-Fiが優先されます。今回の場合、Wi-Fiでつながっている先の固定回線などから割り当てられるDNSサーバーに問題がなければ、正常に通信ができたと考えられます」
安定性への不安
楽天グループ(G)は2020年に子会社の楽天モバイルを通じて携帯電話事業のサービスを開始。どれだけ使っても月額で最大2980円(楽天回線エリアのみ/通話料等別)、さらに月間データ利用量が1GB以下なら基本料無料というプランを掲げ、翌21年には500万回線を突破したものの、昨年には1GB以下の0円プランを終了した影響で契約数が減少。楽天モバイルは契約数の目標値を1200万件としているが、昨年8月に500万件を超えたものの、それまでの1年ほどは400万件台が続いていた。
苦境が続くなか、昨年6月からは「Rakuten最強プラン」の提供を開始し、従来の料金体系を維持しつつ、auローミングの制限を撤廃。それまではデータ利用量については、KDDIのパートナー回線によるauローミングサービス利用時の高速通信は月間5GBに制限されており、制限を超えると通信速度が1Mbpsに制限されていたが、その制限を撤廃した。また、10月には楽天モバイルにとって念願だったプラチナバンドの割り当てが実現。12月にはMNOサービス(自社回線利用分)の契約数が600万件を突破したと発表した。
さらに契約者増の起爆剤として2月に打ち出したのが「最強家族プログラム」だ。家族で「Rakuten最強プラン」に加入すると、1回線あたり月額110円(税込、以下同)の割引が適用されるというもの。楽天モバイルは契約数の目標値を1200万件としており、楽天Gの三木谷浩史会長は24年中に800万回線を達成するとの見方を示している。
そんな楽天モバイルをめぐっては通信の安定性に不安があるという評判も根強かった。つまずきはサービス開始時からみられた。19年10月から開始された試験サービス「無料サポータープログラム」で、全体の2割弱のユーザが開通手続きできないという問題が発生。21年12月にはiPhoneで着信ができないという事象が発生するなど、たびたび通信障害が起こり、楽天モバイルによる公式アナウンスが遅れるケースも目立ち、対応への不満とともに「つながりにくい」というイメージも広まっている。実際のところ、他キャリアに比べて安定性の面で劣後なのか。前出・山口氏はいう。
「楽天モバイルはエリアを広げている最中であり、つながりやすさでは大手3キャリアに見劣りする部分はあります。しかしその点を除けば、総務省に報告が必要となる重大な事故の頻度は他キャリアと大きな違いはありません。高価な設備をソフトウェアで置き換える完全仮想化のネットワークは予想以上にうまく動いており、仮想化の成功事例として海外からも注目されているようです」
楽天モバイルは通信ネットワークに自社で開発した仮想化Open RANの技術を使っている。Open RANは、通信事業者をはじめとする企業が無線ネットワークを構築する際、複数の異なるベンダーのハードウェアを使うことによりフレキシブルにシステムを構築することができる技術。ロックインと呼ばれる単一の提供ベンダーによる囲い込みの問題を解消することでコスト削減につながるとされる。
楽天G傘下の楽天シンフォニーは2月、Open RAN対応の集約ユニット(CU)と分散ユニット(DU)ソフトウェアへの商用アクセスをサブスクリプション型で提供するサービス「リアルOpen RANライセンシングプログラム」の開始を発表した。
「Open RAN対応のCU・DUのすべてのコードベースが含まれており、世界中で数百万もの基地局を展開する上で不可欠なものとなります。これらのコードベースは、LTE eMTC、5G FWA(固定無線アクセス)、5G SA・NSA、5Gプライベート・ネットワークなど、4G・5Gネットワークにわたる幅広い技術をサポートするように設計されています」(同社の公式リリースより)
楽天シンフォニーのOpen RAN技術はすでに楽天モバイルで実用化されており、ドイツのキャリア、1&1にも採用されている。2月にはウクライナの大手通信事業者キーウスターが楽天シンフォニーの技術を導入すると発表されており、フィリピンの通信事業者ナウ・テレコムも楽天シンフォニーの5G Open RANの試験運用に関する覚書を締結するなど、海外展開を進めている。
(文=Business Journal編集部、協力=山口健太/ITジャーナリスト)