中高一貫校、難関大学合格の上位50高校の8割を独占…高校募集の廃止が拡大

都立富士高校(「Wikipedia」より)

 東京大学や京都大学、医学部といった超難関大学への合格率トップ50校のうち、41校が中高一貫校というデータがある。多くの中高一貫校は、中学・高校6年分のカリキュラムを前倒しで授業を進め、高校2年生までに高校3年生のカリキュラムまでを終え、高校3年生の1年間はすべて大学入試対策に充てる。大学入試でも他の受験生に先んじることができ、その結果として難関大学への進学実績が高まるわけである。そのため、中高一貫校への入学を希望する受験生が増えている。そんななか、中高一貫校で高校募集をとりやめる動きが広がっている。専門家に分析してもらった。

 成城学園、本郷、都立富士、都立武蔵、都立両国、都立大泉、都立白鷗、豊島岡女子学園といった中高一貫教育の名門校が、続々と高校募集を取りやめている。特に首都圏の公立校でその傾向が強まっている。6年間のカリキュラムを徹底するために、中学募集だけにしたいという思惑は想像にかたくない。だが、一方で高校募集が中学募集より多い学校も多数ある。その違いはどこにあるのか。中学受験事情に詳しい安田教育研究所代表・安田理氏に話を聞いた。

――首都圏の公立中高一貫校で、高校募集をやめる動きが広まっていますが、その背景には何があるのでしょうか。

「東京都内にある公立の中高一貫校は、すべて高校募集をやめました。都立が10校と、千代田区立九段中等教育学校の計11校が公立校で、九段は2006年に中高一貫となった当初から高校募集がなく、都立10校のうち5校も高校募集をしていませんでした。

 白鷗高校附属中学、両国高校附属中学、武蔵高校附属中学、富士高校附属中学、大泉高校附属中学という、高校に中学校が附属する形の一貫校では、高校募集を行っていました。それに対して小石川中等教育学校、桜修館中等教育学校、立川国際中等教育学校、南多摩中等教育学校、三鷹中等教育学校の5校は、もともと高校募集をしていません。

 東京の場合、高校募集を行っている学校でも中学募集のほうが募集人数は多い状況でした。高校から入学する生徒にしてみると、中学校で人間関係ができあがっているところに少数で入っていくことになるわけで、心理的に負担が大きいことが考えられるため、応募者が少ない状況が何年も続いていました。そこで、高校募集をやめようという流れになったようです」

――つまり、受験生側から見ると、中高一貫教育校の高校募集に関して需要はあまりないというわけですね。

「需要がないというより、高校受験生からすると、他の生徒を同じスタートラインに立てる学校に入りたいということだと思います。中高一貫校は、授業を先取りしていたり、部活もすでに3年間人間関係などが出来上がっています。そこに入るのは抵抗があるのではないでしょうか。都立に関しては、中学募集のほうが枠が大きく、高校募集は枠が小さかったため、高校募集にはあまり集まらなかったのです。

 一方、千葉の県立千葉中学校、千葉県立東葛飾中学校や、埼玉のさいたま市立浦和中学校は、高校募集のほうが人数が多いので、高校から入学する生徒が少数派にならず、入学希望者が多く集まっています。ちなみに千葉市立稲毛国際中等教育学校は来年から高校募集をやめます。また、神奈川の横浜市立南高校・付属中学校は、2026年度入学生から高校募集を閉じます」

首都圏以外や私立の中高一貫校

――首都圏以外ではどのような状況でしょうか。

「愛知県が初めて中高一貫校をつくるのですが、高校募集を多数派として設定しています。このように、高校募集が多数派である学校では、今後も高校募集を閉じることはないでしょう」

――ここまで公立の動きをうかがってきましたが、私立はどうでしょうか。

「私立は大まかにいうと、偏差値が高く中学募集で多くの生徒が集まっている学校は、完全中高一貫にするので高校募集をしません。6年間の授業カリキュラムを組むので、高校から入る生徒のためのカリキュラムを別に組むのは大きな負担になります。反対に、中学で十分な人数の生徒を確保できていない学校の場合、高校募集で生徒をとります。

 中学入試というのは完全なる市場競争です。授業内容や進学実績等、大きな魅力を発信できないと、生徒が集まりません。受験をしなくても公立の中学校に進学できるからです。一方で公立高校は受験者数が減ると入学定員を減らしますから、常に一定数は私立を受験する生徒がいるのです。経営的にみると、高校募集をしているほうが安定するといえます。

 ただ例外的に、開成、城北、巣鴨といった男子校は、上位校ですが高校募集を残しています。反対に女子校の上位校はほとんど高校募集をしていません」

――中高一貫校は総じて大学進学実績は高いのでしょうか。

「高校別の大学合格者数ランキングなどをみると、私立の中高一貫校が上位に並んでいます。公立の中高一貫校でも、たとえば今年は都立10校のすべてから東京大学の合格者を出しています。人数には差がありますが、すべての学校から東大合格者を出したことは特筆すべきことです。中学段階で選抜し、6年間のカリキュラムを経ると、これだけの成果が出るわけで、非常に丁寧な教育をしているといえます」

――公立でも中高一貫校はカリキュラムが特殊なのでしょうか。

「中高一貫校は公立でもかなり独自のカリキュラムを組んでいます。授業時間数を大幅に増やせるわけではないですが、かなり深い内容を教えることができています。私立は土曜日も授業を行っている学校が多いですが、公立は土曜日に授業を行っていません。ただし、特別講座のような形で別に講座を設けることはあります。さらに、海外研修を行っているところもあります」

中高一貫校に子どもを通わせている家庭

――中高一貫校に子どもを通わせている家庭は、世帯収入が高いといった傾向はあるのでしょうか。

「公立の中高一貫校の入試で行われる適性検査は、一般的な知識型入試ではなく、複数の強化の融合問題で、論理的に表現する力や思考力を見るなど問題の難度が高いのです。したがって、小学校のうちから塾に通っていないと太刀打ちできないのが現実です。そうなると、ある程度の経済的余裕がある家庭でなければ、子どもを中高一貫校に入れることは難しいといえます。

 今年、公立の中高一貫校は受験者が減っているのですが、その理由のひとつが、公立の中高一貫校や国立大学付属の学校は入試日が同じであることです。長い間、中高一貫校対策の勉強をしてきても、受けられる学校はひとつだけで、非常にコストパフォーマンスが悪いといえます。

 先日、小石川中等教育学校の説明会で話を聞いてきましたが、受験者の8割以上が私立中学を併願しているそうです。公立の中高一貫校を志望している受験生は、公立中高一貫校受験専門の塾などに通っており、万一合格しなかった場合に、一般の公立中学に入学するという選択はとりにくいのでしょう。

 中高一貫校に子どもを通わせている家庭は、平均よりも世帯収入が高く、親の学歴も高い傾向があるのは間違いありません」

 少子化が加速する一方で、家計の子ども一人当たりにかける支出は急増している。文部科学省の調査によると、学習塾費は1994 年から 2016 年の間で公立中学校では約 5.7 万円、私立高等学校では約5.3 万円増加しており、私立中学校に在学する生徒の割合は2.9%から7.2%へと上昇している。

 ここ数十年、学歴偏重の社会を是正しようとする動きは続いてきたが、それでも子どもの教育に熱心になる親は増え続けている。そのなかで、子どもを中高一貫校に入学させ、さらには難関大学に入学させたいと希望する家庭は今後も増えていくのだろう。

(文=Business Journal編集部、協力=安田理/安田教育研究所代表)

安田理/安田教育研究所代表

東京都出身。大手出版社にて雑誌の編集長を務めた後、教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年に安田教育研究所を設立。教職員研修・講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。各種新聞・雑誌、ウエブサイトにコラムを連載中。
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