菓子製造・販売の人気チェーン「シャトレーゼ」が怒っている。 京都・嵐山にある「京都で最も美しいカフェ」を標榜するカフェが、シャトレーゼで購入したケーキを無断で自店舗のメニューとしてお客に提供していたのだ。だが、大手チェーンならまだしも、今回のカフェのような個人経営の店舗が小売店などで購入した食品をメニューとしてお客に提供することは広く行われており、珍しい事例ではない。専門家は「このカフェの行為は法律的には問題ない」との見解を示すが、外食業界のルール・慣習としてはどう捉えるべきか。また、なぜシャトレーゼは抗議しているのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
改めて説明の必要がないほどメジャーかつ人気のスイーツチェーンに成長したシャトレーゼ。国内外に合計約1000店舗を展開し、「チョコバッキー」「ダブルシュークリーム」「うみたて卵のふんわり厚切りロール」「北海道産バターどらやき」をはじめとする定番商品で知られ、お手頃価格のケーキや洋菓子、和菓子、アイスといったスイーツ類のほか、パン、冷凍食品、ワイン、日本酒なども扱う人気チェーンだ。創業は昭和29年(1954年)。現在ではケーキなど洋菓子のイメージが強いが、今川焼き風のお菓子を販売する店舗「甘太郎」が発祥で、昭和42年(1967年)に社名をシャトレーゼに変更。現在のFC(フランチャイズチェーン)システムによる店舗展開を始めたのは昭和50年(1975年)のことだ。
持ち株会社のシャトレーゼホールディングスは洋菓子店のほか、ワイナリー、ホテル、ゴルフ場などを展開。2019年からは高級志向の都心型新ブランド「YATSUDOKI(ヤツドキ)」を展開。運営するシャトレーゼホテルなどの宿泊施設はスイーツバイキングが満喫できるとしてシャトレーゼファンから人気。グループの従業員数は約3700人、23年3月期の連結売上高は1327億円に上る大企業だ。
「シャトレーゼの戦略として、一つはドミナント戦略を取っていないことが挙げられます。ドミナント戦略とは、小売業がチェーン展開する際に一つの地域に集中して出店する戦略のことで、効果的かつ優れた戦略とも考えられます。実際にドミナント化で成功してきたチェーン店は、飲食業界に限らず数多くあります。
ですが、店名や商品といったブランドを浸透させようと、ドミナント戦略を敷いてその地域に数多く店舗をつくっても、結局はお客様が足を運ばなくなるケースも希ではありません。ですからシャトレーゼは地域内で知名度を上げてプロモーションを行うことよりも、各地域の店舗数は少なくても全国のお客様に幅広く知ってもらうことを重視し、ドミナント戦略をとっていないのでしょう。結果として、同じ地域にシャトレーゼはあまりないためブランドとしての希少価値も生まれ、成功につながったのではないでしょうか。
そして、ドミナント戦略を取らない代わりに、シャトレーゼはその地域のお客様の層や嗜好に合わせた商品展開を積極的に行っているんです。
あくまで一例ですが、ロールケーキひとつとっても違います。千葉県などのシャトレーゼでは1200円で『3種のフルーツロール』を販売しており、東京都・銀座などにあるシャトレーゼの都心型新ブランドYATSUDOKIでは、1500円で『4種果実のフルーツロール』を販売しているんです。後者はおそらく銀座という場所を考慮したうえで、“お土産に買って行こう”というお客様の嗜好に合わせているんでしょう。こうした取り組みが、それぞれの店舗でお客様が途切れない理由にもなっていると考えています」(フードアナリストの重盛高雄氏/2021年1月12日付当サイト記事より)
想定外の悪影響を受ける可能性
そんなシャトレーゼが怒っているというニュースが今月、注目されている。京都・嵐山にある外国人観光客などに人気のカフェが、シャトレーゼが製造・販売している「北海道産マスカルポーネのチーズモンブラン」「クレープ・オ・フリュイ」「かわいいくまちゃん」「パリパリチョコショート」などを無断でメニューに加え、ドリンクが付いたケーキセットとして約1500円で提供していることが発覚。9月17日放送のフジテレビ系番組『めざまし8』によれば、オーナーは中国人で、シャトレーゼは8月23日を期限としてカフェ側に質問書を提出したものの、9月16日時点で回答はないという。また、9月15日付「NEWSポストセブン」記事によれば、シャトレーゼは当該カフェに内偵など行っているといい、同社は「ポストセブン」の取材に対し「弁護士とも相談しつつ厳しく対応してまいる所存です」と回答している。
シャトレーゼは公式サイト上で転売・再販売・営利を目的としての購入について「お断りさせていただきます」と記載しているが、外食チェーン関係者はいう。
「商品を企画・製造・販売している企業としては、自社が許可・把握していないところでコントロールのおよばないかたちで商品が販売されると、たとえば好ましくない店舗でそれが販売された場合に消費者から『シャトレーゼはこんな店舗にまで商品を卸して商売しているのか』と誤解されるなど、イメージ悪化をはじめ想定外の悪影響を受ける可能性があります。それゆえに転売禁止を掲示しているのでしょうし、当該の店舗に抗議するというのは当然でしょう。心情的にも理解できますが、現実問題としてサイト上に『転売はお断りさせていただきます』と掲載しているだけで、それが法律的にどれくらいの効力を持つのか、転売した店舗の行為が即違法となるのかは微妙なところでしょう。
大手チェーンが多くの店舗でシャトレーゼのケーキを無断で販売すれば、シャトレーゼの業績に一定の悪影響を与える可能性もあるため損害賠償問題にもなってくるでしょうし、モラルの問題も出てくるでしょうが、個人経営の飲食店が小売店などで買ってきたものを提供することは広く行われており、製造元の同意の有無という違いこそあれ、それと今回のケースがどう違うのかという話になってきます」
別の外食チェーン関係者はいう。
「このカフェの管理不行き届きが原因でケーキを食べたお客が食中毒になり、このお客がSNS上に『シャトレーゼのケーキを食べて食中毒になった』と投稿し、シャトレーゼが風評被害を受けるといったケースは起こり得ます。なので大手の小売チェーンや外食チェーンが自社開発の商品を他の小売店でも販売する際には、安全・衛生管理などがしっかりしているのかという観点から、その小売店に卸してよいのかを審査して、きちんと契約を締結して諸々の条件について合意を取ってから取引を始めるわけです。今回の事例はチェーンではなく個人経営のカフェなので、それほど目くじら立てて怒らなくてもよいのではとも感じますが、もし看過して同じような行為をする店舗が増えるといろいろと問題も出てくるでしょうから、シャトレーゼとしては毅然とした対処をせざるを得ないという事情もあるでしょう」
知的財産の問題は生じない
山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。
「なぜ、シャトレーゼが騒いでいるのかわかりません。例えば、ケーキの包装からシャトレーゼのロゴや文字を消して販売したり、ケーキを包装し直してロゴをつけて販売したり、確かにシャトレーゼのケーキだけと勝手に『シャトレーゼ』と書いて販売したりすると、商標法違反になります。こういったように包装を加工したり、ロゴや文字をいじっていない限り、知的財産の問題は生じないので、問題ないと考えます」
(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)