格安の価格で美味しい“神お菓子”だと人気だった業務スーパーの「ココナッツブラウニー」。一部商品にカビの発生が確認されたとして先月27日、自主回収が発表されたが、先月12日には「イタリアンビスケット(ヘーゼルナッツ&ココア)」の一部商品において金属異物の混入が認められ自主回収をすると発表されたばかりだった。口の中を負傷した人も発生していた。業務スーパーの食品では昨年1年間だけで計29件の自主回収が発生しており、食品の安全管理に問題があるとの指摘もなされている。
今回自主回収が発表されたのは、1箱(5個入)で213円(税込)の「ココナッツブラウニー」で、賞味期限が2024年12月19日、25年3月5日のもの。すでに全国の店舗に7万3111箱が出荷されており、店舗から消費者への販売数量は不明。運営元の神戸物産は購入者に対し、店舗での回収、もしくは同社お客様相談室への送付を呼びかけている(返品した人には商品代金相当分のQUOカードを送付)。食品のカビにまつわる事故としては今年、小林製薬の紅麹原料を含むサプリメントで、青カビがつくる有毒物質「プベルル酸」が原因で健康被害が生じていたことが判明。摂取後に腎臓の病気を発症する人や死亡者がいたと発表されている。業務スーパーの「ココナッツブラウニー」を食べた人の間で健康被害が出ているという情報は現時点ではない。
実践女子大学名誉教授で薬学博士の西島基弘氏はいう。
「カビについては消費者が考えるほどの病原性はありません。アスペルギルス・フラバス等が産生するアフラトキシン(種実類についていることが多い)が肝臓毒・肝がんの原因物質ですが、1度や2度食べただけでは発症しません。今問題となっている紅麹のプベルル酸ですが、どの程度摂取すると発病するのかは、わかっていません」
昨年の1年間では計29件の自主回収
業務スーパーでは以前から自主回収の多さが指摘されてきた。昨年10月から今年9月までの1年間だけでも、今回の件を含めて以下のとおり計22件の自主回収が行われている。
(24年9月)
・ココナッツブラウニー
(一部商品でカビが発生)
・イタリアンビスケット(ヘーゼルナッツ&ココア)
(一部商品に金属異物の混入が確認)
・シーザーサラダドレッシング
(一部商品に風味異常が確認)
(24年6月)
・オーツクランチ(ココア味)
(プラスチック片が混入)
・ホットク
(卵のアレルゲン表示がない、別商品が誤って混入の可能性)
・チーズホットク
(アレルゲン表示にない落花生が混入の恐れ)
・鶏屋さんのチキンカツ
(ビニール片が混入)
(同4月)
・マイカップDEヌードル ビーフ・カレー・チキン
(一括表示に記載がないアレルゲンが検出)
(同3月)
・トロサーモン(ハラス切り落とし)
(BHT<ジブチルヒドロキシトルエン>の残留が確認)
・金の鶏だし1kg・227g
(アレルゲン表示が欠落)
(同2月)
・グリーンアスパラ(ホール)
(基準値を超える残留農薬の検出が確認)
(同1月)
・紅生姜鶏から揚げ
(一括表示に記載のない着色料が検出)
(23年12月)
・ふんわりミニロールケーキ ブルーベリー風味
(基準値以上の添加物が検出)
・白身魚でつくったザクザク網春巻き」
(表示に記載のないアレルゲン検出)
・ショコトーネ
(安息香酸が検出)
(同11月)
・ひとくちがんも
(表示に記載のないアレルゲン検出)
・本格四川火鍋(麻辣ベース)
(一部商品でカビが検出)
・ハニーバターポップコーン・キャラメルポップコーン
(一部商品で使用できない添加物が検出)
(同10月)
・銀の胡麻ドレッシング ※他社製品
(一部商品が膨張)
・いちごグミ・ぶどうグミ・オレンジグミ
(一括表示に記載のない添加物が検出)
・ソフトワッフル ヘーゼルナッツチョコクリーム
(一括表示に記載のない添加物が検出)
・グリーンアスパラ(ホール)
(一部商品で基準値を超える残留農薬が検出)
また、昨年の1年間では計29件の自主回収が発生している。そのため、今回の発表を受けてSNS上では以下のような声が相次いでいる。
<業スーの商品ってよくリコールしてるイメージ>
<さすがにこうも続くと業スの商品ヤバいのかなって思っちゃう>
<安かろう悪かろう>
<定期的にやらかす業スー>
<業務スーパーってこういうニュース多い>
<有り得ないものが有り得ない値段で売られている>
<近所にあってたまーに行くけど有名商品のパッケージ丸パクリ商品とか、中国産野菜の大パックとか、ちょっと日本の常識から外れてる>
大きな社会的問題を起こしかねない懸念
業務スーパーは「食の製販一体体制」を掲げ、自社で企画・製造するオリジナル商品を拡充させている。原材料の生産・加工・販売を自社で行い、国内に25拠点の食品加工工場を構え、国内自社アイテム数は約370に上る(23年11月現在)。加えて、世界に350を超える協力工場を持ち、「世界の本物を直輸入」をコンセプトに掲げており、海外直輸入アイテム数は1680に上る。輸入商社や問屋を介さずに工場から直接買い付けることでコストダウンを実現している。
今年7月時点の店舗数は1071に上るが、前出・西島氏はいう。
「異物等は見つけた消費者が必ずしも連絡するとは限りません。したがって、実態はこれより多い可能性があります。食品添加物や残留農薬の違反は食品衛生法違反になりますので、ただちに回収を命令され、処罰を受けているはずです。ビニールやプラスチック、金属の混入については大きさが分かりませんが、原因は加工場の場合と原料にすでに混入していた場合とがあります。風味が悪いのは、食中毒菌というより雑菌が繁殖していた可能性もあります。
ここで一番問題なのはアレルギー表示の欠落です。食物アレルギーの人は、食品を買うときには必ず原材料表示をみて、自分のアレルゲンになるものが入っている場合は避けています。ヒトにより感度が違い、アナフィラキシーショック(重篤な全身性の過敏反応)を起こす可能性があります。業務スーパーに限らずメーカーは商品を出すときには十分注意をする必要があります」
小売チェーン関係者はいう。
「業務スーパーは毎月、新規店舗を複数出店するなど積極的な拡大を続ける一方、食品の品質問題による自主回収の頻度が減っておらず、毎回短いリリースで商品を会社に送付してくださいと呼び掛けるのみ。安全管理の見直し・強化に力を入れて取り組んでいる姿勢が見えず、このままだと将来、小林製薬のような大きな社会的問題を起こしかねないという懸念を感じます。全国に1000店以上を展開する大手チェーンにしては自主回収の頻度が多すぎるし、その姿勢にも疑問を感じます」
別の小売チェーン関係者はいう。
「海外の工場から直接買い付けているとのことだが、協力工場といっても自社運営ではなく、定期的な監査などは行っているかもしれないが、製造・衛生の管理基準・マニュアルは各工場の運営会社のものとなり、業務スーパーが細かいところまで管理しているわけではない。加えて海外の工場となれば、国によって法令や当局による取り締まりの厳しさには差があるし、工場によっては衛生・安全管理が杜撰なところもあるかもしれない。地理的に日本から離れていれば、自ずと監視の目も行き届きにくくなる。
輸入商社が介在することで、商社でも仕入先の選別や品質チェック・管理が行われるが、商社が介さないことで、これらについて全責任を業務スーパーが負うことになる。コストダウンの面ではメリットが生じる一方、業務スーパーがそのあたりをどこまで徹底しているのかが気になる」(24年9月14日付当サイト記事より)
また、流通ジャーナリストの西川立一氏は23年10月3日付当サイト記事で次のように指摘していた。
「他の大手流通チェーンに比べて、商品回収の頻度が多いように思います。業務スーパーのオリジナル商品はアジアやヨーロッパをはじめとする海外の工場・メーカーからの直輸入が多く、なかなか監視の目が行き届きにくいという面はあるでしょう。発売前にどこまで現物を検査しているのかはわかりませんが、すべての商品の中身を検査することは不可能なので、検査が不完全になっている可能性もあるでしょう。
業務スーパーは安さを売りにする小売チェーンですが、食品の取り扱いにおいて品質の安全性確保は最優先すべきであり、多少のコストがかかっても取り組むべき事柄です。今の消費者は『安さ+安心・安全』を求めており、『安さ』だけでは消費者の信頼・支持を得続けることはできません」(流通ジャーナリストの西川立一氏/23年10月3日付当サイト記事より)
(文=Business Journal編集部、西島基弘/実践女子大学名誉教授)