東京・世田谷区の環状七号線沿いに立つ高級マンション「東急ドエル・アルス世田谷フロレスタ」が今、入り口が閉ざされ住民が一人も住んでいない状態となっている。一連の経緯を報じてきた「週刊現代」(講談社)によれば、竣工時点で数多くの施工不良や違法建築が存在したにもかかわらず、東急不動産は約20年間、再三にわたる管理組合からの問い合わせに対し「問題ない」との回答や虚偽の回答を繰り返し、構造計算のコンピュータによる再計算では社員が手作業で数値を書き換えたりもしていたという。いったんは住民に対して建て替えを提案したものの、その直後に建物の解体を決定して退去するように通知し、住戸の買い取りに応じない住民には法的手段を取ると通知しているという。購入者のなかには大手ディベロッパーの東急不動産が手掛けているから安心できると考えて購入した人も少なくないとみられるが、大手が開発するマンションでもこのような施工不良は珍しくはないのか。また、なぜ東急不動産は不誠実とも受け取れる住民への対応を繰り返したのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
東急不動産はオフィスビル、「渋谷ヒカリエ」「東急プラザ」などの商業施設、マンション「BRANZ」ブランドなどの住宅事業、ホテル事業、リゾート開発などを手掛ける大手不動産開発会社。総合不動産開発会社としては売上高ベースで三井不動産、三菱地所に次ぎ、住友不動産と並ぶ存在となっている。現在は東京・渋谷駅周辺を中心とする大規模再開発プロジェクト「広域渋谷圏(Greater SHIBUYA)」を推進していることは、大きくメディアでも取り上げられている。
見えない部分での手抜き工事で施工不良
そんな業界を代表する大手である同社の手掛ける高級マンションでトラブルが生じている。「東急ドエル・アルス」シリーズの世田谷フロレスタは1998年の竣工後、間もない頃から施工不良が相次いで発覚。「週刊現代」の報道によれば、以下のような事象が発覚していたという。
・地下ピット内のガス管や水道管が宙ぶらりん状態。配管を通すために地中梁に穴が開けられ、内部の鉄筋が切断。
・耐震スリットが大幅に不足しており、構造計算書、構造図、実際の数が乖離。
・建築基準法の高さ制限を超えている(違法建築)
大手ディベロッパーが手掛ける高級マンションでこのような事態が起きるということは、珍しいことではないのか。不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏はいう。
「ここまで不良が多い事例は聞いたことがなく、唖然とするレベルですが、事業主が大手か中小事業者かにかかわらず一般的に建物は完成から5年くらいまでの間で、小さなものも含めて建物に存在する不良があらかた見つかるものです。ですので、どのような建物でも小さな施工不良はあるものと考えたほうがよいです。
今回の物件は平成バブル崩壊後の不況時に企画・設計・着工されたため、非常に強いコスト削減意識の下でつくられたという点も施工不良の原因としては考えられます。かつて東京・港区で三菱地所と鹿島建設が手掛ける高級マンションで、不適切なコア抜きや鉄筋切断などが見つかり、引き渡し目前に建て替えが決定するという事案が起きニュースになりましたが、見えない部分での手抜き工事で施工不良が生じる典型的な例といえます」
内々で穏便に済ませようという意識
2005年に管理組合から問い合わせを受け、24年に解体を決定するまでの約20年間、東急不動産は「問題ない」との回答や虚偽の回答を繰り返していたわけだが、なぜ同社はこのような対応をとったのか。
「一般的に不動産会社には日々、管理組合から多くの問い合わせが寄せられており、早急に対応しなければならないものから、事業者側による対応が不要なものまで内容はさまざまであり、内容によっては担当者が聞いているふりをしてやりすごそうとすることもあるでしょう。また、住居というのは極めて基本的なインフラであるがゆえに住民はナーバスになりやすい分、事が大きくなりやすいという性質があり、メディアやSNS上に情報を流されると会社として大きなダメージを負う可能性があるため、できるだけ内々で穏便に済ませようという意識が働きがちです。
今回の件でいいますと、最初は住戸内に発生したカビがきっかけだったということなので、東急不動産は軽微な事態だととらえて穏便に済ませようとしたが、徐々に事の重大さを認識して『隠したい』という意識が働いた可能性はあるかもしれません」(牧野氏)
では、このような重大な施工不良問題に直面した場合、住民はどう対応すべきなのか。
「問題が個別の住戸に関するものなのか、建物全体に関するものなのかでも違ってきますが、個人が大手の不動産会社に問い合わせをしても、なかなか動いてくれないでしょうから、管理組合として申し入れをすべきです。また、建築の専門知識がない一般の消費者と不動産会社の間には情報の非対称性が存在し、不動産会社に“丸め込まれてしまう”可能性もあるため、管理組合がインスペクション(住宅診断)会社に依頼して独自に調査し証拠資料を揃えていくといったことが有効になるケースもあります。
ただ、施工不良問題で難しいのは管理組合内部も一枚岩になりにくいという点です。住民のなかには施工不良が公になることで物件の資産価値が下がると考えて、大事にすることに抵抗する人もいます。長期間にわたり不動産会社と協議するのを嫌って、会社側の提案に従ってさっさと退去すればよいと考える人も出るので、住民の間での合意形成というのも大きな難題となってきます」(牧野氏)
(文=Business Journal編集部、協力=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)