なぜデリバリー「Wolt」は地方から攻める独自戦略?北海道・東北で存在感、店頭価格と同額で宅配も

●この記事のポイント
・北海道で存在感を示しているフードデリバリーが「Wolt」
・比較的個人店の選択肢が豊富。地道に店舗を開拓
・「デリバリーなのに店頭価格」を実施、対象店舗の商品価格が店頭価格と同額に
国内のフードデリバリー市場はUber Eatsと出前館の2強体制になっている。市場シェアは調査会社によって大きく異なるが、Uber Eatsが3~4割程度、出前館が2~3割程度で、他社が数%程度といわれる。2トップが君臨するなか、北海道で存在感を示しているのがフィンランド発のフードデリバリー「Wolt」だ。日本進出は2020年で後発組に入るにもかかわらず、北海道でのシェアが約3割という調査結果も出ている。北海道では苫小牧市、室蘭市、北見市など比較的小規模な都市にも進出している。Woltはなぜ地方のエリアに注力し、存在感を示すことができているのか。Wolt Japan株式会社の代表、ナタリア・ヒザニシヴィリ氏に国内での拡大戦略を聞いた。
●目次
中規模都市に注力
Woltはフィンランド・ヘルシンキ発のフードデリバリーサービスだ。2014年に創業して2年後にはスウェーデンに進出。その後、中欧諸国を中心に勢力を拡大し、日本では2020年にサービスを開始した。出前館がスマホに対応したのは2010年、Uber Eatsの日本進出は2016年であり、業界の中では後発にあたる。日本進出にあたり、まずは20年3月に広島でサービスを開始、その後、北海道・東北でリリースし、同年10月に東京進出を果たした。
「都市の規模がヘルシンキなどヨーロッパの中核都市に似ているため、日本ではまず広島でサービスを開始しました。東京や大阪などのメガシティに進出するのはもちろん重要ですが、弊社はまず地方中核都市、中規模都市にフォーカスし、徐々にエリアを拡大する方針を取りました。やみくもにエリアを拡大するのではなく、各エリアで質の高いサービスを提供するよう努めています」(ナタリア・ヒザニシヴィリ代表)
北関東や北陸、関西では未出店地域も多いが、北海道と東北の全県には進出している。札幌・仙台でも、東京に進出する前にサービスを開始した。広島で始めたにも関わらず、なぜ北日本に注力したのか。
「九州や西日本にも中規模都市は沢山ありますが、サービスを素早く浸透させたかったため、比較的競合の少ない北方を選びました。他社が浸透していないエリアであれば、新しいユーザーを獲得することができ、また、地元の飲食業者と組んでビジネスを展開しやすくなります。昨年秋には北海道の小樽・苫小牧・室蘭に進出、今年5月には岩見沢と北見で、6月には釧路でサービスを開始しました」(同)
苫小牧・室蘭・北見の人口はそれぞれ16万人・7万人、11万人だ。室蘭のデリバリー状況を見ると、“2トップ”も進出しているが、ピザチェーンなど大手が主。Woltは個人店の選択肢が圧倒的に豊富だ。地道に店舗を開拓していることが窺える。店舗数の多さが北海道でのシェア拡大につながったのだろう。
消費者にとってアフォーダブルであることを重視
勝者総取りと言われるように、アプリを使ったサービスはまず、シェア拡大を狙うことが多い。しかしWoltではシェアを重視していないという。
「国内で何パーセントというようなマーケットシェアは気にしておりません。それよりも、各エリアでベストなサービスを提供できるよう、心がけています。Wolt内で、消費者が欲しいと思える物をWoltに掲載されている店舗が提供できる状況にする必要があります。その上で重要なのが、“アフォーダブル”であること。消費者が価格とサービスの質を比較し、納得することです」(同)
「アフォーダブル(affordable)」とは「お手頃な」「手の届く」という意味で、ニュアンスとしては「納得のいく値段」を言い表す時に用いる。Woltでは注文から30分以内の配達を目標としており、スピードの速さが売りだという。そして最近ではお得感を打ち出すべく、店頭価格による集客も行っている。
「日本では一般的に、デリバリーのメニュー価格が実店舗での価格よりも高く設定されています。このため、デリバリーサービスを使うことについて『贅沢だ』と考える人が多く、消費者がフードデリバリーを利用する際の障壁になっています。海外では、デリバリーの商品価格と店頭の価格は同じであることが一般的で、このため世界の他の都市と比較すると、日本のユーザーのデリバリー利用率は著しく低い。便利なサービスを気軽に利用してもらえるよう、メニューの価格を店頭価格と同じにする施策を行っています」(同)
日本の通常のフードデリバリーでは、商品価格に加え、サービス料や配達料などの手数料が加算されるが、そもそも商品価格が店頭価格よりも高く設定されていることが一般的だ。Woltは4月から札幌市と広島市で「デリバリーなのに店頭価格」を開始、対象店舗の商品価格を店頭価格と同額に設定している。この取り組みは今、北海道内の他のエリアにも拡大している。
広がる小売との連携
Woltは、2021年からコンビニエンスストアや北海道地盤のドラッグストアチェーン「ツルハドラッグ」との連携を始めるなど、ドラッグストア、スーパー、コンビニエンストア、百貨店などの小売事業者との連携も活発に行なっている。飲食店から料理を配達するだけでなく、小売店舗で販売する食料品や、洗剤や掃除用品など日用品の配達にも対応している。
「2020年以降、Woltは『ポケットの中のショッピングモール』をコンセプトに、料理以外の配達も手がけるようになりました。従来のいわゆるフードデリバリーの枠を超えて、例えば花屋からの配達にも対応します。商品ジャンルを増やす中、食料品や日用品を数多く扱うスーパーやドラッグストアとの連携は、ユーザーのニーズにきめ細かく対応できるポテンシャルが非常に大きいと感じています」(同)
他社は22年以降、ドラッグストアとの連携を強化しており、配達とドラッグストアの組み合わせは効果が大きかったとみられる。特にWoltが注力する中小都市では飲食店数や注文数が大都市より少ないため、その空隙を埋める効果もありそうだ。
Woltが北海道など北方に注力し、中小規模の都市でサービスを強化していることが分かった。他社もエリアを拡大しているが、マイナーなエリアにおける店舗の選択肢はWoltが豊富で、地道な開拓が支持につながったと考えられる。
他の業界にも共通するが、既に高シェアが握られている市場において、後発の企業がシェアを増大するのは至難の業だ。「地域」または「客層」を限定し、特定の区分に限定するニッチ戦略を取るしかない。コンビニ業界のセイコーマートのように北海道の覇者となるのか、Woltの今後に注目したい。
(文=山口伸/ライター)