終活→美容医療→警備…20代の連続起業家が狙う「時価総額1兆円」

●この記事のポイント
・美容医療クリニック向けのクラウド型電子カルテ「medicalforce」を運営するメディカルフォース。medicalforceは単なる電子カルテではなく、リピート客を増やすためのマーケティングツールとして機能しており、約600のクリニックが導入。
・CTOを務める組田隆亮氏は、過去に「終活ねっと」を共同創業し、DMMへの売却を経験した連続起業家。さらに別の分野での起業ももくろんでいる。
目次
昨年11月に厚生労働省が発表した「2023年の医療施設調査」によれば、全国の美容医療クリニック(美容外科標榜診療所)の数は2016施設となった。2020年の調査では1404施設だったので、612施設(43.6%)増えたことになる。都市部を中心に開業が相次いでおり、市場拡大が著しい科目だ。
その美容医療で約600のクリニックが導入するクラウド型電子カルテ「medicalforce」を運営するのは、創業5年目のメディカルフォース(東京・品川区)だ。同カルテは自由診療事業者向けオールインワンSaaS(Software as a Service)だが、サービス提供開始が2021年3月なので急成長と言ってよい。畠中翔一CEOとのツートップ体制で代表取締役CTOを務める組田隆亮氏は急成長の理由について、単なる電子カルテではなく“マーケティングツール”だと説明する。
「クリニックの業務・経営のすべてを管理するだけでなく、リピート客を増やすツールです。例えば、医師や看護師がどれだけ顧客満足度の高い施術を提供できているかにつながるデータまで取れます。自由診療は保険診療と違って顧客単価が高く、ある意味でクリニックのファンになってもらうことが大切。『施術して3カ月経ちましたが、術後経過いかがですか。またお待ちしています』みたいなマーケティングが効く業界であり、medicalforceにはその仕組みが織り込まれています」(組田氏、以下同)
組田氏は創業当初から、顧客ヒアリングからのスピーディーな開発を重視し、顧客に受け入れられるプロダクトを短期間で開発してきた。同社はmedicalforceで培ったノウハウを生かし、市場規模や産業を限定せず、異なる産業へも事業を展開していくことを戦略としている。実際、現在は警備業向けに配置・給与・請求などを一括管理するソフト「警備フォース」を提供している。これは、事業を通じてより広い対象に大きな価値を届けたいというビジョンに基づいている。
サービスを増やし他業界への展開を
メディカルフォースを立ち上げたのは、CTO組田氏とCEOの畠中氏を含む3名。その後、経営陣の入れ替えを行い、COOに羽富が就任した。
「参入する業界については、創業者同士でかなりヒアリングしながら決めました。現在5期目ですが、スタートアップ立ち上げ期と成長期は別だと考えており、そのタイミングで経営陣の入れ替えを行いました。今後は組織も大きくなっていくので、今までみたいに阿吽の呼吸で経営するのは結構難しい。もっと緻密に企画を達成していくことが必要であり、しっかりした指揮系統を敷いて組織全体を動かしていくためにバトンタッチしました」
現在は美容と警備という2つの業界でサービスを展開しているが、組田氏はビジョンを実現するために新しいサービスの立ち上げも必要だと考えている。
「社名はメディカルフォースですが、業務すべて完結できるオールインワンサービスのプロダクトをベースに、データ基盤や顧客基盤を使って、その産業自体の成長に寄与する事業を立ち上げていきたい。ただ、あまり市場規模が大きくなくて、業務が煩雑で困っている業界を開拓していきます」
事業拡大に伴い、組織の多重階層化は避けられないと認識しており、今後はチームを適切に管理・育成できるマネージャー層の採用を強化していくとしている。
組田氏は、過去にスタートアップの共同創業やM&Aを経験しているシリアルアントレプレナー(連続起業家)だ。そのときの経験がメディカルフォースの組織づくりや事業戦略に生かされている。
大学時代「終活ねっと」立ち上げに参画
組田氏は東京大学在学中の2016年春、葬儀や墓などに関する情報サイト「終活ねっと」をCTOとして共同創業した学生ベンチャーだ。同サイトは月間1000万PVにまで成長し、DMMが18年10月に資本業務提携し、20年3月に完全子会社化した。その後、DMMは「終活ねっと」サービスを22年5月末に終了している。
組田氏は参画した経緯や資本業務提携の背景など、当時のことをこう話す。
「先輩(CEOの岩崎翔太氏)から誘われたからというのが一番のきっかけです。私は工学部でパソコンを触っていたというだけで、なんとなくCTOになった(笑)。メディアなのでシステム自体は大変ではなく、リリースまでは3カ月でしたが、それから記事集めや投稿に時間がかかりました。立ち上げるまで投資家の方に結構話を聞いて、終活をテーマに選んだ。技術的な難易度が高い世界でもないので、学生スタートアップとしてはやりやすかった。メディアの売り上げは広告が基本なので、正直、それほど立っていなかったのですが、単価の高いお墓や葬儀などをやり始めて、数字も伸びていきました。DMMから資本業務提携のお声掛けをいただいたのは、そのタイミングです」
起業してみて経営の面白さに目覚める
組田氏は理系で、グラフィックデザインをパソコンで作るなど、もともとはものづくりに興味があった。実際、起業に参画したのも、自分の作ったものを多くの人に届けたいという気持ちがあったからだ。しかし、起業してみて会社経営に興味が湧くようになった。
「経営は仕事として日々やることが変わる。どんどんフェーズが上がっていくので、自分の視野が広がっていくような感じがしたし、それがとても楽しかった。今の会社を立ち上げたのも、その感覚をまた味わいたかったからです。もっと高みを目指したいという感覚です」
ものづくりが好きなエンジニアには、自分の作ったプロダクトを手放したくないという熱い思いを語る人も少なくない。しかし、組田氏はエンジニアよりも冷静なアントレプレナー(ゼロから新しい事業を立ち上げる起業家)としての顔を見せる。
「もちろん、(プロダクトに)思い入れはあります。でも、同じところにずっと留まっていても仕方ないという感覚が強い。資本業務提携をしたときも心配はなかったし、未知の世界にワクワクしました」
今後の挑戦について、次のように話す。
「僕はこのメディカルフォースで時価総額1兆円規模は目指したい。40代半ばくらいまでにそこまでたどり着ければいいですね」
組田氏は現在、美容と警備の次に参入できる市場を模索している。いまだDX(デジタルトランスフォーメーション)が及ばずくすぶっているような産業がターゲットで、ITやソフトウェアの力で本来のポテンシャルを発揮できるような状態にしていくことが目標だ。次に組田氏がどの業界を選ぶのか、今後に注目したい。
(文=横山渉/ジャーナリスト)











