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介護人材20万人以上が不足…高齢化と逆行する「介護職員数の減少」という現実

2025.12.01 2025.11.30 22:46 企業

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●この記事のポイント
・介護職員が20万人超不足する中、国家試験不合格者を有資格扱いする経過措置が終了すれば、外国人材の減少などが重なり、現場の人手不足がさらに深刻化する可能性がある。
・養成施設の入学者の半数以上を占める外国人にとって、日本語試験の合格率は50%未満と高い壁。経過措置終了は日本を選ばない要因となり、教育機関や介護現場に大きな打撃を与える。
・人材不足の解消には、試験制度の柔軟化、現場のDX促進、無資格者の活用、外国人の生活支援など多角的な施策が必須。質を担保しつつ人材を確保する制度設計が今後の焦点となる。

 日本の介護現場で、深刻な人手不足が再びクローズアップされている。厚生労働省の最新データ(2023年度)によれば、介護職員数は212万6000人。一見すると多く感じるが、前年度から約3万人減少しており、社会保障審議会が示した「2025年度に必要となる介護職員の見込み数」約245万人には遠く及ばない。すでに推計では20万人超の不足が続いており、高齢者人口がピークを迎える2040年前後には、不足規模はさらに拡大すると考えられている。

 これまで人材不足を補ってきたのが、介護福祉士資格の「経過措置」だ。2017年度の法改正で、養成施設卒業後も国家試験不合格者を最長5年間、有資格者として扱うことを認めていた。しかし厚労省は、この経過措置を終了し「国家試験合格者のみを介護福祉士と認める」方向で議論を進め始めた。人材の質の担保を目的とする一方で、現場からは「制度が変われば外国人が来なくなる」「ただでさえ不足なのに採用がさらに困難になる」との懸念が広がる。

●目次

介護福祉士制度の歩み──なぜ経過措置が必要だったのか

 介護福祉士は介護系資格の中で唯一の国家資格であり、介護現場の中核を担う存在だ。
しかし2017年度以前、養成施設を修了すると国家試験に不合格でも自動的に介護福祉士となれる仕組みが長年続いていた。国際標準と比較しても資格要件が低く、質の確保が課題として指摘されていた。

 そこで2017年度の法改正で、「試験合格者だけを介護福祉士にする」方針へと転換。しかし移行期間として、2021年度卒までの学生は不合格でも「5年間は介護福祉士とみなす」経過措置が設けられた。

 この措置が人材確保を支えていた理由は、次の2つにある。

(1)外国人材への“実質的な救済策”
 養成施設の入学者の半数以上が外国人となった現在、日本語で行われる国家試験は大きな壁だった。合格率は50%未満にとどまり、試験に落ちても「5年間は有資格者として働ける」仕組みは、外国人材が日本を選ぶ理由になっていた。

(2)日本人の新規参入の減少
 介護職への日本人の志望者は減少傾向にある。労働環境の厳しさ、給与の伸び悩み、精神的負担の大きさなどが主な理由だ。養成施設の定員割れも続いており、経過措置が“即戦力を確保する最後の手段”となっていた。

経過措置終了の衝撃──外国人材が日本を避ける未来

 もし経過措置が廃止されれば、介護の担い手にはどのような影響が出るのか。

●外国人材が日本から離れる可能性

 アジア各国ではすでに介護資格の国際化が進み、介護人材の争奪戦が激しい。特に台湾、シンガポール、中東などは給与水準が高く、言語面のハードルも日本より低いケースがある。

「2年間学んでも資格が取れない可能性が高い国」という評価が広まれば、日本を選択肢から外す外国人が増えるのは避けられない。

 介護福祉士の国際比較でも、日本は「試験言語(日本語)」が最大の壁となっており、実技よりも言語能力に左右される点は海外から批判の声もある。

●国内の教育機関にも打撃

 多くの養成施設は外国人学生を受け入れることで経営を維持している。経過措置終了で外国人の入学意欲が下がれば、施設の存続すら危ぶまれる。

制度の理想と現実

 社会保障の専門家で社会福祉士の高山健氏は、外国人が英語などで受験できるようにする制度設計が必要との見解を示す。

「国家資格の質を高める方向性自体は妥当です。しかし日本語試験がボトルネックとなり、本来の介護能力ではなく語学力で落とされる現状は国際的に見ても不自然です。言語支援の強化なしに経過措置を切るのはリスクが大きい」

 また、外国人の介護職への就業を支援する行政書士でファイナンシャルプランナーの成瀬愛氏も、現状のままでは外国人の介護者は減ると警鐘を鳴らす。

「外国人材は『日本語試験が取れるかどうか』で進路が決まります。試験の難易度と実務の必要性が乖離しており、優秀な学生でも落ちる。経過措置がなくなれば、外国人介護人材の来日数は確実に減るでしょう」

介護現場の慢性的な構造問題

 介護業界が抱える課題は制度の枠組みだけではない。大きく分けて「待遇」「業務負担」「現場環境」の3点が依然として根深い。

(1)給与水準の伸び悩み
 介護職の平均給与は30万円を超えつつあるが、夜勤・休日出勤が多い割に「他の職種と比較して高いとは言えない」。若年層の離職理由の多くが、給与と生活のギャップによるものだ。

(2)業務の過重負担
 記録業務、利用者対応、家族への説明、生活支援など、多岐にわたる業務が常に人手不足とセットで発生する。結果として 新人が定着しない構造 になっている。

(3)ICT導入の遅れ
 記録のデジタル化は進んだが、施設ごとに方式が異なるため “業務効率化の限界” が指摘されている。

「資格の壁」だけでは人材は戻らない

 人手不足の解消には、制度面の手直しと現場の改善が両輪で進む必要がある。ここでは、実現性の高い施策を整理する。

(1)試験制度の見直し(日本語ハードルの緩和)
 ・日本語N2保持者への一部科目免除
 ・日本語試験の簡素化や段階化
 ・介護実技評価を重視した“二段階資格制度”
語学力ではなく「介護の専門性」で評価する仕組みにすることが不可欠だ。

(2)現場改善(ICT・AI・ロボティクスの導入)
 記録支援AI、見守りセンサー、移乗サポートロボットなど、すでに実装段階にある技術を標準化し、国が導入費用を補助する仕組みが求められる。

(3)外国人材の「生活支援」強化
 ・住居支援
 ・メンタルサポート
 ・地域コミュニティとの連携
 ・相談窓口の多言語化
 外国人が長期定着する環境整備を進めなければ、単純な「受け入れ枠の拡大」だけでは意味がない。

(4)無資格者の活用とキャリアパスの明確化
 介護助手、生活支援スタッフなど、無資格でも従事できる業務を明確化し、介護福祉士へのキャリアアップを支援する仕組みが必要だ。

政策はどこへ向かうのか

 政府もすでに複数の対策を進めている。

●介護職の給与引き上げ(補助金・処遇改善加算)
 処遇改善加算を中心に給与を引き上げてきたが、「加算頼みの構造」は限界に達している。

●外国人材の受け入れ拡大(EPA・技能実習・特定技能)
 日本語教育の不備や制度の複雑さが課題となっており、より一体的な政策設計が求められている。

●介護DXの推進
 見守りセンサーの義務化検討や、介護ソフトの標準化など、業務効率化の流れは確実に強まっている。

“質の担保”と“人材確保”を両立できるか

 制度改革によって介護福祉士の質を高めること自体は、利用者にとってもメリットが大きい。しかし、質を追求するあまり人材が枯渇しては本末転倒である。

 介護の現場では、質よりも「人がいない」という状況が加速している。経過措置が完全に終了すれば、外国人材の認知が大きく変わり、介護の担い手はさらに減る可能性が高い。

 解決の鍵は、「言語の壁を取り除きつつ、介護の専門性は丁寧に評価する柔軟な制度設計」だと言えるだろう。

 日本が近い将来、世界で最も高齢化が進む国となることは確実だ。だからこそ、日本の介護制度はアジアのモデルケースとなるチャンスも秘めている。人材不足を逆手に取った革新的な制度とテクノロジー導入が、介護の未来を切りひらく可能性は十分にある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)