ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 介護職員、人手不足解消されない理由
NEW

介護業界、20年前も今もずっと人手不足の根深い理由「給与水準は悪くないが」

文=Business Journal編集部、協力=大島康雄/星槎道都大学准教授
介護業界、20年前も今もずっと人手不足の根深い理由「給与水準は悪くないが」の画像1
「gettyimages」より

 介護士の人手不足は20年も前から叫ばれているにもかかわらず、なぜ一向に解消されないのかという疑問が一部SNS上で話題となっていた。専門家は「現在では給与水準は決して悪くはない」というが、その原因・背景はなんなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 他業種と比較して低いといわれてきた介護職員の賃金は、国の施策もあり年々引き上げ傾向にあった。24年度からは介護報酬が1.59%引き上げられ(処遇改善分が0.98%、その他の改定率が0.61%)、さらに処遇改善加算の一本化による賃上げ効果なども加わり、合計で2.04%相当の引き上げとなった。厚生労働省の「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、介護福祉士の平均給与額は33万1080円、保有資格がない介護士の平均給与額は26万8680円となっている。

 一口に介護職員といっても、職種・資格は多岐にわたる。これまで介護職は無資格でも就けたが、21年度の介護報酬改定により無資格で介護に直接携わる職員に認知症介護基礎研修の受講が義務づけられ、今年3月末までの経過措置期間の終了に伴い4月からは受講が義務化された。

 介護系資格として唯一の国家資格が介護福祉士であり、介護施設での実務経験3年以上や実務者研修の修了などが必要(その他のルートあり)。さらに上には現場責任者・管理者向けの認定介護福祉士があり、5年以上の介護福祉士としての実務が必要となる。よく耳にする「ケアマネ」とは介護支援専門員(ケアマネジャー)を指し、介護サービスを利用するためのケアプランを作成する職種であり、専門資格が必要。これらのほかにも介護系の資格は複数存在する。

“効率的な介護”が優先

 その介護職員をめぐっては、長きにわたり人手不足がいわれ続けてきた。厚生労働省によれば、22年度の介護職員数は約215万人で、26年度時点の必要数は約240万人と試算しており、約25万人増やす必要がある。40年度には約272万人が必要になり、約1.3倍に増やす必要がある。

 星槎道都大学社会福祉学部准教授の大島康雄氏はいう。

「新卒で介護の仕事に就いた人の離職率が高いという状況は以前から変わっていません。食事や入浴のサポートなどルーティン業務が大半で、現場では“効率的な介護”が優先されるため、熱意を持って入ってきた若い人が、やりがいを感じにくいという理由が大きいように思えます」

 東京都内の介護施設に勤務する介護職員はいう。

「日本人だけでは必要な人手を確保できないので、ウチは外国人技能実習生を積極的に受け入れています。国籍はタイやベトナム、インドネシアが多いですが、新規採用では日本人よりも外国人のほうが多くなっています。一括りに外国人技能実習生といっても国籍によって文化や労働への姿勢が全然異なり、年末年始は絶対に休むので出勤できないという国の人もいる。なので、日本人職員との軋轢(あつれき)が生じることもあり、職員の国籍が多様になるほど現場のマネジメントは大変になる」

 介護職の人手不足の理由として、給与水準が低い点が指摘されることが多い。

「行政の取り組みにより処遇改善が進められ給与は徐々に引き上げられてきたこともあり、給与水準が低いといわれる他の業種と比較すれば、現在では悪くはないといえます。『仕事の大変さの割に安い』といわれることもありますが、他の業種と比較した場合、必ずしもそうとはいえないのではないでしょうか。離職する人が多い理由としては、先ほどの繰り返しにはなりますが、やはり、やりがいを感じにくいという点が大きいと思われます。たとえば保育士であれば、お世話をする対象である子どもの成長を日々感じられますし、看護師も患者さんの症状が回復して元気になっていく姿に接する機会も多いでしょうが、介護職の場合は高齢者の方を『これ以上悪くならないよう』にサポートして、良くて現状維持となるので、他の福祉職との違いも要因としてはあると思います。

 また、夜勤もある仕事なので、それが『嫌だ』『諸事情でできない』ということで辞めたり、夜勤が特定の人に集中してしまうケースもあるので、それがつらくて辞めてしまう人もいるでしょう」(大島氏)

行政と高校・大学の協力が必要

 介護サービスを提供する法人はどのように採用活動を行っているのか。

「求人サイトやSNS、ハローワーク、人材紹介会社などの利用に加え、辞めた元職員に個別に声をかけるなど努力していますが、なかなか採用しにくい状況になっています。介護施設・拠点は法律で定められた人員基準を満たす必要があり、人が辞めるとその分を補充する必要があるため、採用基準を緩めて以前では採用しなかったような人材まで採用せざるを得ない状況になっています。勤務態度に問題がある職員がいても、辞められると困るので細かく注意できず、その結果、職場の人間関係が悪化したりというようなことも起きています。新人を教育・研修する時間も十分に確保できず、入って数週間で夜勤を任せたりすることもあります。

 介護職を志望する若い人が少ないという問題もあります。大学の介護専門学科では定員の4割ほどしか埋まらないことも珍しくなく、そうした学科でも卒業生の大半が介護業界ではない一般企業に就職することは普通にあります。プロ野球のドラフトのように、法人側が学生にオファーするような制度も必要ではないでしょうか」(大島氏)

 人材確保のためには、どのような施策が必要なのか。

「高校生が介護施設でインターンシップをする機会を設けるなど、行政が政策的に高校・大学と協力して取り組むことが大切だと感じます。一部の大学医学部で設けられている制度を参考にして、大学の介護専門学科を卒業後に一定期間、その自治体の介護施設で就労した場合は大学在学時に受給した奨学金の返済を免除したり、就労を条件に授業料を免除したりと、経済的な制度の整備も一定の効果が見込めるのではないでしょうか。このほか、社会福祉法人も一般民間企業の資金の流入を誘うような発想も必要だと思います」(大島氏)

(文=Business Journal編集部、協力=大島康雄/星槎道都大学准教授)

大島康雄/星槎道都大学准教授

大島康雄/星槎道都大学准教授

北星学園大大学院修了。2019年から星槎道都大准教授。札幌市内で居宅介護支援事業所と障害福祉サービスの相談支援事業所を運営する傍ら、21年から北海道介護支援専門員協会会長。社会福祉士、精神保健福祉士、主任ケアマネジャー。
大島康雄プロフィール

介護業界、20年前も今もずっと人手不足の根深い理由「給与水準は悪くないが」のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!