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「最難関」の保育DXに挑む…少子化大国・日本を救う“データプラットフォーム”の全貌

2026.01.15 2026.01.14 23:00 企業

「最難関」の保育DXに挑む…少子化大国・日本を救うデータプラットフォームの全貌の画像1

●この記事のポイント
・少子化と労働力不足の最前線にある保育現場。そのDXが進まない構造的理由を明らかにしつつ、ユニファが「社会インフラ」として保育DXに挑む思想と全体像を描く。
・配置基準や制度差といった業界特有の制約を乗り越えるため、ユニファは多機能統合型ICT「ルクミー」を展開。保育者の「移動」と「転記」をゼロに近づける現場主義のDX戦略に迫る。
・AIによる安全管理や成長データ活用を通じ、保育の質と安心を両立。蓄積される保育データを起点に、少子化という日本社会の構造課題に挑むユニファの未来構想を提示する。

「保育DXの究極的な目的は、家族の幸せにあると思っています」——。インタビューの冒頭、ユニファ代表取締役CEOの土岐泰之氏は、穏やかな語り口ながらも、揺るぎない確信をにじませてそう切り出した。

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ユニファ代表取締役CEO・土岐泰之氏

 日本が直面する労働力不足の“急所”であり、同時に少子化対策の最前線でもある「保育」。共働き世帯の増加を背景に、保育はもはや一部の家庭の問題ではなく、日本経済全体を下支えする社会インフラとなっている。しかし、その現場の実態に目を向けると、いまなお手書きの書類、煩雑な事務作業、サービス残業、そして「命を預かる」ことによる極度の精神的緊張に支えられているのが現実だ。

 こうした状況から、保育はしばしば「日本で最もDXが困難な領域」と称されてきた。その最難関分野で、累計100億円規模の資金調達を行い、全国の保育施設・自治体を巻き込みながら変革を進めているのがユニファである。

 土岐氏が繰り返し口にする「新しい社会インフラ」という言葉。その裏側には、単なる業務効率化やIT化にとどまらない、日本社会の構造そのものに挑む強い意思があった。

●目次

保育業界はなぜDXが進まないのか

 では、なぜ保育のDXはこれほどまでに遅れてきたのか。土岐氏はその理由を、現場のITリテラシーや意識の問題に還元することを明確に否定する。

「保育業界が他の産業と決定的に違うのは、『配置基準』というルールが存在する点です。製造業やオフィスワークなら、生産性が上がれば人員を減らしたり、別の業務に再配置したりできる。でも保育では、業務がどれだけ効率化されても、こども一人ひとりに必要な保育士の人数は法律で決まっている。すぐに人件費が下がるわけではないんです」

 この構造が、DX投資の“見えにくさ”を生んできた。コスト削減や利益拡大といった分かりやすいリターンが描きにくく、結果としてIT投資が後回しにされてきたのが保育業界の歴史でもある。

 さらに、自治体ごとに運用ルールや補助制度が異なる制度の地域差、20代から60代までが同じ現場で働く世代間ギャップも、DXを阻む要因となってきた。

 こうした条件が重なることで、保育DXは「技術的に難しい」のではなく、「構造的に難しい」領域となっている。

「だからこそ、この業界では説明書を読まなくても使えるようなUI/UXが不可欠です。『慣れれば使える』では遅い。初日から直感的に使えなければ、現場には定着しにくい。それが、保育DXの成否を分ける分水嶺なんです」

保育者の「移動」と「転記」をゼロにする多機能統合型戦略

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 ユニファが提供する保育総合ICTサービス「ルクミー」は、写真・動画共有から登降園管理、連絡帳、午睡チェック、請求管理まで、15に及ぶプロダクトを一体化している。なぜ、あえてここまで「多機能」にこだわるのか。

「単機能のツールをいくつも導入すると、現場は逆に疲弊します。このアプリにログインし、あの帳票に転記して、また別の画面を開く——それ自体が新たな負担になる。僕らが目指しているのは、保育者の『移動』と『転記』を限りなくゼロにすることです」

 タブレット一枚を持てば、必要な情報がすべて一つにつながる。この“一気通貫”の思想こそが、ユニファのプロダクト戦略の中核だ。その思想を支えているのが、エンジニアなども自らが保育施設に入り、実際にこどもと接し、業務を体験したり、オンラインでもヒアリングを行うという徹底した現場主義である。

 どの場面で保育者が立ち止まり、どこで手が止まるのか。その微細な行動レベルの理解が、プラットフォームとしてのルクミーの完成度を高めてきた。

現場業務の変化と安全管理のアップデート

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 ユニファの取り組みの中でも、特に社会的な注目を集めているのが、AIを活用した安全管理だ。乳幼児の突然死リスクに対応する「ルクミー 午睡チェック」について、土岐氏は次のように語る。

「午睡センサーが体の向きを検知し、専用アプリに自動で記録する。これは単なる省力化ではありません。保育者の皆さんが背負ってきた心理的プレッシャーを、テクノロジーで軽減するための仕組みなんです」

 安全確認は人の目で行うべき——その原則は変わらない。しかし、ヒューマンエラーという「ゼロにできないリスク」を最小化するために、テクノロジーが果たせる役割は確実にある。

 さらに、ルクミーのAI機能「すくすくレポート」は、過去の膨大な保育データをもとに、園児やクラスごとの成長レポートを自動生成する。

「事務作業のために、こどもから目を離す時間をなくしたい。テクノロジーが事務を担い、人間は『人間にしかできないまなざし』に集中する。それが、僕らが考える保育の質です」

自治体との協働のむずかしさと突破法

 公共領域とスタートアップの協働は、しばしば「PoC止まり」に終わると言われる。その中で、ユニファが社会実装を進めてきた背景には、明確な戦略があった。

「『便利なツールがあります』という提案では、自治体は動きません。大切なのは、待機児童対策や保育の質向上といった政策課題に、どう貢献できるかを示すことです」

 国が推進する保育ICTラボ事業などを通じて、ユニファはエビデンスを積み上げてきた。その結果、単なるITベンダーではなく、政策実現を支えるパートナーとしての立場を確立しつつある。

保育データがもたらす未来

 土岐氏が見据える本質的な価値は、保育現場に蓄積されるデータの先にある。

「僕たちは、0歳児からの成長データを最も深く持つプラットフォームになりたい。健診データと連携してリスクを早期に察知したり、こどもの興味関心に合わせた支援につなげたりできる。このデータは、10年、20年、30年と価値を持ち続けます」

 さらに、そのデータは「自分がどう育てられたか」という、個人のルーツを証明する資産にもなり得る。

「愛された記録が、データとして残る。それは、家族の幸せに直結するものだと思っています」

日本社会が抱える構造課題への処方箋

「保育DXは、単なるIT化ではありません。保育施設を起点に、まちづくりや社会保障のあり方を再定義する作業なんです」

 インタビューの最後、土岐氏はそう力強く語った。保育の質が高まれば、保護者はより安心して働ける。保育者の処遇が改善されれば、産業としての魅力も高まる。ユニファが挑んでいるのは、保育という一領域の改善ではなく、少子化という日本最大の構造問題に対する、持続可能な社会インフラの再構築なのだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)