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安川電機、フィジカルAIに1200億円BET…営業利益2倍への勝算と前回未達の課題

2026.06.17 06:00 2026.06.16 23:37 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=安達祐輔/ロボットエンジニア

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●この記事のポイント
安川電機は2026〜2029年度の新中計「Dash 35」で、営業利益を473億円から1000億円へ2.1倍に引き上げる目標を発表。1200億円の戦略投資でフィジカルAI分野のM&Aを推進しエヌビディア・富士通とも協業するが、中国勢の台頭と前回中計の未達が課題として残る。

 2023年にChatGPTが登場して世界を驚かせて以降、AIへの注目はオフィスワークの効率化から、次第に工場や倉庫、農場といった「現実の作業現場」に広がってきた。ロボットやセンサーが周囲の状況を認識し、自律的に判断・動作するAI、いわゆる「フィジカルAI」と呼ばれる領域である。

 その潮流を象徴する発表が5月22日、産業用ロボット国内2位の安川電機からあった。同社は2026年度から2029年度までの新たな中期経営計画「Dash 35」を公表し、最終年度となる2030年2月期に、連結営業利益を前期(2026年2月期実績473億円)の2.1倍にあたる1000億円に引き上げる目標を掲げたのだ。売上収益は20%増の6500億円を計画する一方、4年間の累計投資額2500億円のうち1200億円を、M&Aや資本提携を中心とする「戦略投資」に充てるという。

 売上の伸びが20%にとどまる一方で、利益を2倍以上に引き上げるという目標は、単なる事業拡大ではなく、収益構造そのものの組み換えを意味する。本稿では、この計画の背景にある業界構図と、実現に向けて指摘されているリスクを、公開情報をもとに整理する。

●目次

ファナックとの「AIの脳」競争

 日本の産業用ロボット業界では、世界最大手のファナックと、それを追う安川電機が長年競い合ってきた。これまでの競争軸はロボットアームの精度や耐久性といった「ハードウェアの性能」が中心だったが、両社が相次いで打ち出した新計画に共通するのは、ロボットに搭載するAI、いわば「脳」の能力が次の競争軸になるという認識である。

 安川電機は2023年の国際ロボット展(iREX)の段階でNVIDIAのロボティクス・パートナーに名を連ね、2025年10月には富士通・エヌビディアとの3社協業を発表するなど、フィジカルAIの実装に早くから取り組んできた経緯がある。これに対しファナックも2025年12月にエヌビディアとの協業を発表し、自社の産業用ロボット約200機種をAIで制御するためのソフトウェアを公開、ロボットコントローラーをROS2に対応させるなどオープン化を加速させた。さらに2026年5月にはグーグルとも連携し、AIエージェントによるロボット操作の実証を進めている。

 今回、安川電機が1200億円というM&A・資本提携の枠を新設した背景には、こうした開発競争が激化するなかで、自社に不足するAI・ソフトウェア技術や、ヒューマノイド開発のノウハウを外部から取り込み、時間を買う狙いがあるとみられる。実際に同社は2025年、ヒト型ロボットを開発する早稲田大学発スタートアップ「東京ロボティクス」を買収しており、今回の戦略投資枠もこうしたM&Aの延長線上に位置づけられる。

 ロボット工学の専門家でロボットエンジニアの安達祐輔氏はこう話す。

「これまでロボットメーカーの競争力は機械工学的な精度や信頼性で測られてきたが、フィジカルAIの時代には、AIモデルの学習データやシミュレーション環境をどれだけ早く整備できるかが優劣を分けます。安川電機の戦略投資枠は、その開発競争に必要な技術や人材を、時間をかけずに獲得するための布石といえるでしょう」

「売り切り」から「使われ続ける」へ——利益率倍増のシナリオ

 新中計のもう一つの柱は、営業利益率を2026年2月期実績の8.7%から15.4%へ、ほぼ倍増させる目標だ。この水準は、前回の中期経営計画「Realize 25」(2023〜2025年度)でも掲げられていたものであり、安川電機にとって長年の課題でもある。

 この高収益化シナリオの中核に位置づけられているのが、画像処理用GPUを搭載したAI産業用ロボット「MOTOMAN NEXT」だ。形状や位置にばらつきのある対象物への作業など、従来のロボットでは対応が難しかった「未自動化領域」を担うことを想定している。現状の販売比率はまだ低いが、ハードウェアを売り切るだけでなく、AIソフトウェアのアップデートや機能追加によって継続的に収益を得る「リカーリング型」のビジネスモデルへの転換が、利益率改善の鍵になるとみられる。同社の常務執行役員は2026年6月の説明会で、フィジカルAI事業の利益貢献を2029年2月期から見込みたいとの考えを示している。

 応用領域の広がりも特徴だ。これまで自動車工場が中心だったロボットの用途を、食品(衛生対応のスカラロボットなど)、物流、農業(JA全農と連携したキュウリの葉かき作業の自動化など)、さらにはアステラス製薬との合弁会社を通じた再生医療分野(ヒト型ロボット「まほろ」を用いた細胞培養)にまで広げる構想だ。製造業の自動化を支える「プラットフォーム」としての地位を志向しているといえる。

 一方で、市場の評価は一様ではない。国内のあるアナリストからは、フィジカルAIロボットの用途として中心となる「キラーコンテンツがまだない」との指摘も出ている。1980年代に産業用ロボットが自動車の溶接・塗装ラインで急成長した時のような明確な主力用途は、フィジカルAIロボットではまだ定まっていないのが実情だ。

「ソフトウェアやサービスでの継続収益比率を高められれば、業績の安定性という点で評価は変わります。ただし、これは『言うは易く行うは難し』であり、顧客の生産現場にAIをどう定着させるかという実装面の課題は大きいです」(安達氏)

リスク①:急速に台頭する中国メーカー

 この計画の実現を左右しうる最大の外部要因が、中国メーカーの台頭である。中国の調査会社MIR DATABANKによれば、2025年上半期、中国の産業用ロボット市場でエストン・オートメーション(南京埃斯頓自動化)がファナックを上回り、シェア首位に立ったとされる。イノバンス・テクノロジー(匯川技術)も含め、中国の現地メーカーは低価格と開発スピードを武器に、サーボモーターや産業用ロボットといった日系企業の中核領域に急速に食い込んでいる。

 中国政府は2026年から始まる第15次五カ年計画で、ロボティクスと「具身智能」(フィジカルAIに近い概念)を、量子技術や6Gと並ぶ国家優先産業に位置づけている。中国国内の産業用ロボットの国産化率はすでに55%を超えたとされ、富士経済の予測では中国の製造業向けロボット市場は2030年に2024年比で47.8%拡大するという。

 安川電機の業績にとっても、中国市場の動向は無視できない。モーションコントロール事業は中国の電子部品市場の低迷の影響を受けており、中国メーカーの存在感が増すなかで、1200億円の戦略投資が価格競争力・開発スピードの両面で対抗しうる技術や事業を獲得できるかどうかは、今後の検証が必要なポイントだ。

リスク②:繰り返されてきた「未達」という現実

 もう一つ指摘しておくべきは、安川電機自身が新中計の説明資料の中で、前回の中期経営計画「Realize 25」(2023〜2025年度)について「全社業績・財務目標は未達」と総括している点だ。Realize 25では、2025年度に売上収益6500億円、営業利益1000億円(営業利益率15.4%)、ROE・ROICともに15%以上という目標が掲げられていたが、実際の2026年2月期の営業利益は473億円(前期比5.7%減)にとどまり、目標を大きく下回る結果となった。

 新中計「Dash 35」では、売上収益6500億円・営業利益1000億円・営業利益率15.4%という目標値自体はほぼそのまま維持されており、実質的には達成時期を4年先送りした形とも読める。一方でROE・ROICの目標は、それぞれ12%以上・11%以上へと、前回の15%以上から引き下げられており、より慎重な指標設定になっている点は留意したい。

 財務面では、自己資本比率は59.5%と健全性は高く、配当も維持する方針が示されている。その意味では、無理な背伸びというより身の丈に応じた範囲での「攻め」とも評価できる。ただし、過去にも意欲的な目標を掲げながら達成に至らなかった経緯を踏まえれば、今回の1200億円の戦略投資が計画通りの成果を生むかどうかについては、市場も一定の慎重さを持って見ていくことになりそうだ。

フィジカルAI時代の日本のものづくりの行方

 労働力不足という構造的な課題を抱える日本の製造業にとって、フィジカルAIは大きな機会であると同時に、グローバルな開発競争への参加でもある。安川電機の1200億円の戦略投資は、ファナックをはじめとする競合や、急速に力をつける中国メーカーとの競争の中で、自社の技術的なポジションをどう確保するかという経営判断の一つの形だ。

 その成否は、今後数年間でMOTOMAN NEXTをはじめとするAIロボットが実際の現場でどれだけ使われ、収益化につながるかにかかっている。次の決算説明会や2027年度以降の進捗報告は、この計画の実現可能性を見極めるうえで重要な材料となるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=安達祐輔/ロボットエンジニア)

公開:2026.06.17 06:00