暴動があったのは、北部ハリヤナ州のマネサール工場。報道によると、この日の朝、上司に暴力を振るった新労組のメンバーが停職処分になった。新労組側は会社側にこのメンバーに対する懲戒処分を取り消すよう要求。会社が態度を変えなかったため、怒った作業員らが事務所に乱入、鉄棒などで幹部社員を殴り始め、事務所を破壊した上、放火したという。日本人の経営陣らは一時、工場内に閉じ込められた。現在工場は閉鎖されており、工場再開は未定。マルチ・スズキの中西真三社長は「1カ月もかけるわけにはいかない」としており、8月の操業再開を目指す考えだが前途は多難だ。
新労組側は19日の声明で、インド人上司が従業員にカースト制度(各社会集団間で通婚・食事などに関して厳しい規制がある序列制度)下の不可触民であることを理由に、差別発言したことが混乱の発端と主張している。
この工場では2011年、大規模ストが断続的に発生した。1回目は6月、全面停止が13日間続いた。2回目が7月、3回目が8月、深刻なサボタージュが発生し、経営側はロックアウトで応戦。33日間も続き、10月1日にようやく収束した。
これで終わりかと思ったら、4回目がその1週間後に起きた。さすがにこのときは州政府が機敏に対応し、州高裁命令で労働者を強制退去させ、14日間でなんとか終わらせた。
ストの原因は、一部の従業員が「今の組合は働き手の声を反映していない」と自主労組を結成、インド全土を束ねる全国組織に加盟しようとしたところ、経営陣が、それを許さなかったことが発端だ。紆余曲折の末に新労組は承認されたものの、次は正社員と非正社員の待遇格差是正を闘争目標に据えた。そして、今回の暴動である。エスカレートの一途をたどっている。
インドの自動車業界では、スズキに限らず、労使紛争が多発している。韓国の現代自動車、米GM、独ポルシェやホンダ系の部品メーカーが狙われた。
いずれも正規労組ではない自主労組をつくり、「新しい組織をつくったから、正規の労組として承認せよ」と要求する。「臨時工から正規工にしろ」といった諸要求も入る。インドの全国規模の労組の特徴は、政党と深く結びついていることだ。最強がインド共産党系のAITUCという全国労組で、「労組としての権利を獲得するための争議」が仕組まれる。