昨年7月に行われた東アジアカップで、柿谷曜一朗、山口蛍らセレッソ所属のイケメン選手が日本代表に選出されたのを機に、セレ女は急増している。
2013年度の平均観客動員数は、前年度比約11%増。今期開幕戦のサンフレッチェ広島戦では3万7049人の観客を動員。その影響はホーム開催の試合にとどまらず、カシマスタジアムで開催された第4節の鹿島アントラーズ戦では、昨年の同カード入場者1万837人の約3倍となる3万2099人を記録。味の素スタジアムで開催された第8節のFC東京戦ではチケットが完売するほどの売れ行きをみせた。
もちろん本年度の動員数に関しては、久方ぶりにJリーグに現れた大物助っ人、ウルグアイ代表FWディエゴ・フォルランの存在が多分に影響していると考えられるが、少なくとも試合会場や練習場に若い女性ファンが大挙する、といった光景はブームと呼んでも差し支えないだろう。
一体何が彼女たちを突き動かしているのか。熱狂の要因を探るべく、大阪ダービーを控えた練習場、さらにヤンマースタジアム長居で行われた大阪ダービーに足を運んだ。
●遠方からも訪れる女性ファン
公共の交通機関を利用して大阪市此花区・舞洲(まいしま)にあるセレッソの練習場を訪れるためには、バスの利用が必須となる。JR桜島駅から出発するバスに乗り込み、乗車客の8割以上が女性という空間で、すし詰め状態のまま揺られること約15分。ようやく到着した練習場には、平日の午前10時という時間にもかかわらず、幅広い年齢層の女性たちが選手の登場を待ち構えている光景が目の前に広がってきた。中には、大型のスーツケースを引きずり場所取りをしている女性もおり、その数は1人や2人ではない。
「神奈川県から、仕事の休みを利用して2泊3日で来ました。もともとは横浜マリノスファンでしたが、友だちにセレッソのきめ細かいファンサービスを聞いてから、ずっと来たかったんです。昨日の練習では、柿谷選手と山口選手のサインをゲットできたので、今日は秋山大地選手と杉本健勇選手のサインを狙っています」(会社員・20代)
「千葉県から来ました。有給休暇を取って2日連続で通っています。Jリーグの各チームの練習場に行きましたが、選手がハイタッチしてくれたり、写真撮影の撮り直しに応じてくれるチームはほかにないです。選手の対応から“ファンを大切にしよう”という想いが伝わってきます。ちなみに、イチ押しの選手は南野拓実君です」(会社員・20代)
そのほかにも、遠方から訪れたという数人に話を聞いたが、いずれのケースもそれぞれの居住地にJリーグチームがあるという事実が印象に残った。
●練習後はプレゼントを持った女性たちが殺到
練習開始から1時間が過ぎる頃には、見学するファンの数は少なく見積もっても400人を超えていた。見たところ20代と思われる女性が多いが、中には10代や40代とおぼしき女性も発見することができた。
「学校の創立記念日を利用して来ました。今回で通算6度目です。学校の友だちにもセレ女の予備軍はまだまだいます。選手たちを身近に感じられるのが本当に魅力的。年が変わらない南野選手や秋山選手が頑張っているのを見て、毎回刺激を受けています」(高校生)
「去年から週1回のペースで足を運んでいます。さすがに人がどんどん多くなって1人の選手と接する時間は少なくなってきていますが、それでも選手は変わらず大人な対応ができるからえらい。主婦仲間の間では(杉本)健勇が一番人気。息子みたいでかわいいんです」(主婦・40代)
練習場を訪れた女性たちの声をまとめると、「きめ細かい対応」「選手との距離の近さ」「ファンを大切にする姿勢」といった要素がセレ女たちを引きつけているようだ。
練習終了後は、女性たちはそれまで撮影していたカメラをしまい、一斉にサイン獲得と持ち寄ったプレゼントを渡すことを狙い、激しいポジション争いが始まった。そんな長蛇の列をなすファン一人ひとりの要望に選手たちが応え終わる頃には、練習終了から1時間以上が経過していた。セレ女たちはその後、バスを待つまでの間、昨年度から新設されたカフェスペースにて本日の収穫を満足そうな顔で共有していた。
●野太く叫ばれるチャントに交じる黄色い声
迎えたガンバ大阪との大阪ダービー当日。4万2723人を集めたヤンマースタジアム長居では、女性だけのグループで観戦するサポーターの姿も目立った。ゴール裏では、席がなく立ち見で声援を送る女性たちもいた。試合中に、杉本健勇選手に送られたチャント(応援歌)では、野太い男性の声だけでなく、女性の声もはっきりと聞こえる大きさで確認することができた。
筆者はこれまで国内のみならず、欧州・南米・アジアの各スタジアムで観戦を重ねてきたが、ここまではっきりと女性の声がチャントに組み込まれているのを耳にするのは初めての経験である。これは女性客の比率の高さに起因するところが大きいのだろう。Jリーグが安全に観戦できる環境ということも後押ししているが、恐らく現在のセレッソ大阪は世界的に見ても女性の集客に最も成功しているクラブの1つだろう。
足繁く練習場に通うサポーター、そのファンの熱意に応えるべく丁寧な応対をする選手、スタジアムに響きわたる女性たちの声を聞きながら、ブームは概して過ぎ去るものだが、しばらくセレ女現象は続きそうだと感じた。
(文=栗田シメイ/Sportswriters Cafe)