「MOOC(ムーク)」あるいは「MOOCs(ムークス)」と呼ばれるものをご存知だろうか? 「Massive Open Online Courses」の略であり、インターネット上で有名大学の一流教授の授業が無料で受けられるものだ。NHKや読売新聞にも取り上げられたので、そこでご覧になった方も多いだろう。「Coursera」 や「edX」などのウェブサイトを通じて提供されており、登録にはなんの資格や要件も必要なく、誰でも視聴できる。講義は授業をビデオ撮影したものではなくインターネット配信を前提としてつくられており、提供されるビデオも通常15分程度の長さで区切られ、スマートフォンでの視聴をも意識した親切なつくりになっている。まさに、いつでも、誰でも、無料で、世界で最も上質な授業を手軽に受けられるのである。
ありがたい限りなのだが、疑問が湧くのは「一体、なんのためにこんなことをしているか?」という点だ。MOOCのビジネスモデルはまだ模索中であり、固まっていないとみられる。それは運営者によって異なると考えられるし、実際、すでに現状でもサイトによって微妙にモデルが異なっている。
例えばCourseraはベンチャー企業であり、ベンチャーキャピタルからの投資を受け、提携大学の授業を配信している。一方、edXは米ハーバード大学と米マサチューセッツ工科大学(MIT)の大学間コンソーシアムからスタートしており、今のところ非営利団体だ。
今後のMOOCのビジネスモデルの方向性としては、大きく分けて2つの方向性が考えられるだろう。1つは、無料講義で集めた視聴者を顧客と考えるものであり、終了証の発行や一部講義を有料としたり、広告を掲載したりする、いわゆる「フリー」のビジネスモデルを採るものだ。
もう1つは、視聴者を経営資源と考えるものであり、無料講義を通じて有能な受講生を発見してその生徒を自校に入学させたり、コース終了後の人材紹介に結びつけたり、受講履歴などのデータを解析して商品を販売したりするものである。edXのように非営利で運営するとしても、自校への有能な入学者の早期の発見のために使うのであれば十分に存在意義を見いだせるだろうし、すでにそのようにして見いだされたモンゴルやパキスタンの優秀な学生たちがMITに入学している。
さらに興味深いのは、有名大学の授業がMOOCとして無料で提供されることの社会的インパクトだ。質の低い授業を行っている教育機関の存在価値はなくなるだろう。講義以外のさまざまな社会的活動の場でもある学部レベルや、医師や弁護士の受験資格の前提としてのプロフェッショナルスクールはともかく、ビジネススクールにおいては優秀で経済的・社会的に影響力ある学生同士のネットワーキングを提供したり、インタラクティブかつアートとしても価値の高い授業を行うことができる講師を確保できない下位のスクールは、存在できなくなっていくのではないだろうか。
●海外MBAの授業を日本にいながら受講
MOOCの無料講義にはもちろんビジネススクールの講義も含まれていて、例えばCourseraで提供されている米ペンシルバニア大学ウォートンスクールのファイナンスの授業は、同校の看板教授の1人であるフランクリン・アレン教授がMBAとほぼ同様の内容を講義している(アレン教授自身による授業の紹介:https://www.coursera.org/course/finance)。ウォートンはこれ以外にもMBA基礎科目をMOOCとして取り揃えており、「マーケティング」「会計」などの基礎科目であればMOOCだけでほぼ受講できてしまう。基礎科目以外にも興味深い応用科目が多くのビジネススクールからMOOCとして提供されている。講義を受けるという目的だけであればMOOCを使って日本に居ながらにしてMBA留学したのと同じことができてしまうのである。もちろん、MBA留学には前述のように他の学生から刺激を受けたり、他の学生や教員の考え方を学んだり、同級生とのネットワークづくりや、留学先の社会に触れるという重要な面があり、まったく同じになるというわけではない。