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安部徹也「MBA的ビジネス実践塾」第10回

不振のマクドナルド、異色の商品開発手法で「成功の復讐」打破なるか?外部識者や顧客とタッグ

文=安部徹也/MBA Solution代表取締役CEO

不振のマクドナルド、異色の商品開発手法で「成功の復讐」打破なるか?外部識者や顧客とタッグの画像1「日本マクドナルド HP」より
 メガバンク勤務後、アメリカのビジネススクールでMBAを取得し、今では幅広い企業の戦略立案やマネジメント教育に携わる安部徹也氏が、数多くのビジネス経験やMBA理論に裏打ちされた視点から企業戦略の核心に迫ります。

業界初のプロジェクトがキックオフ

 6月24日、日本マクドナルドのHP上で「みんなのとんかつソース研究会」(以下、みんなの研究会)のキックオフ会議の模様がレポートされました。この研究会は、同社とソースサプライヤー、各界の専門家と共に、20~50代の一般顧客が男女各2人ずつ、計16人がメンバーとして加わり、期間限定で人気を博した「とんかつマックバーガー」に合うオリジナルソースを開発していくプロジェクトです。6月2日から同社は、「みんなの研究会」メンバーを一般顧客の中から公募します。そして、6月15日には選ばれたメンバーを招集して、東京・新宿のハンバーガー総合研究施設「スタジオM」でキックオフ会議が開催されたのです。

 一般顧客とタッグを組んで商品開発を行うのはマクドナルドにとって初めての試みになりますが、なぜ同社はこのような業界初の試みにチャレンジするのでしょうか? その背景に迫っていきましょう。

快進撃から一転、不振の泥沼にはまったマクドナルド

 マクドナルドは当時の原田泳幸社長の下、2006年から6期連続で営業最高益を更新するなど快進撃を続けてきました。製品戦略でいえば、プレミアムローストコーヒーやクォーターパウンダーなど次々と魅力的な新製品を投入し、ヒットを飛ばしてきたのです。

 ところが、11年の東日本大震災以降、流れが急に変わります。原田社長はこれまでと同様にさまざまなキャンペーンを仕掛けていきますが、“神通力”を失ったかのように、顧客はほとんど反応しなくなってしまったのです。

 この変化に対して、12年後半から13年初めにかけて、今度は効率化を推し進めることで業績の回復を試みる戦略に転換を図ります。12年10月には店頭メニューの廃止(のちに復活)、そして13年1月にはオーダーから60秒以内に商品を提供することを目指す「ENJOY! 60秒サービス」など、矢継ぎ早に効率化を推進する施策を展開していったのです。

 ところが、この効率化の推進は、顧客の利便性の減少や提供する商品のクオリティ低下につながり、逆に顧客の支持を失ってしまったのです。結果として、マクドナルドは顧客離れがますます加速し、業績が混迷を極めることになります。

マクドナルドが陥った「成功の復讐」

 経営の世界では「成功の復讐」という格言があります。経営者であれば、もちろん成功を目指さない者などいませんが、その成功体験が輝かしければ輝かしいほど、過去の栄光に捉われるようになります。そして、経営環境が変わっても「自分はこれまでこういうやり方で成功してきたんだ」という固定概念に縛られて、斬新な考え方ができなくなり、まったく成果を上げられなくなってしまう現象です。恐らく、マクドナルドも“成功の復讐”の罠に陥り、東日本大震災を境に急激に変わった環境に対応しきれずに、不振から脱出できなくなってしまったのではないでしょうか。

 環境が大きく変化したにもかかわらず、経営者がその変化に対応することができなければ、経営者自身が変わるしか方法はありません。

 そこでマクドナルドも、後任として世界各国のマクドナルドで実績を積んできたサラ・カサノバ氏に白羽の矢を立て、社長に招聘したのです。この意味ではカサノバ氏にはこれまでの経営とはまったく違う新たな取り組みが求められているといっても過言ではないでしょう。

「オープン・イノベーション」でマクドナルドは蘇るか?

 マクドナルド復活の期待を一身に背負って登板したカサノバ社長ですが、復活ののろしを上げるためにチャレンジした業界初の試みが、冒頭の「みんなの研究会」といえるでしょう。

 やはり、自社開発だけでは限界があり、従来の発想の枠を超えることは難しいといわざるを得ません。そこで、外部のまったく違う感性を持つ人材をプロジェクトチームに取り込むことによって、ブレークスルーを起こそうとしているのです。

 最近では自社だけなく、他社の技術などを活用して新たな道を切り開く戦略を導入する企業も増えてきています。この戦略は「オープン・イノベーション」と呼ばれ、米ハーバード・ビジネス・スクールのヘンリー・チェスブロウ助教授によって体系化され、P&Gなどで顕著な成果を上げています。また、マクドナルドは顧客と共にこれまでにない製品をつくり上げていくという意味では「コア・コンピタンス経営」(自社が強みを持つ領域に経営資源を集中させる経営)で著名なC.K.プラハラード教授が提唱した企業と顧客との共創によってイノベーションを起こす「コ・イノベーション戦略」ともいえるでしょう。

 このように、マクドナルドの取り組みは、「成功の復讐」を打ち破るために、外部の専門家や顧客など「思考の罠」に陥っていない者からオープンに意見を求め、業界の常識では考えられなかったような商品を開発して、爆発的な売り上げを記録することを目論んでいるのです。

「みんなの研究会」の場合は特に、顧客が自ら望むものを企業と共に創り上げることによって、「そうそう、こんなハンバーガーを待っていたんだよ!」という真のニーズに対応する商品を生み出す可能性にもつながります。

 果たして、「みんなの研究会」は、外部の専門家や顧客と共に新たな価値を創り出し、ハンバーガーのイノベーションを起こすことができるのでしょうか?

「みんなの研究会」は、不振からの早期脱却を図るマクドナルドにとって、ターニングポイントになる可能性を秘めたプロジェクトともいえそうです。
(文=安部徹也/MBA Solution代表取締役CEO)

安部徹也

安部徹也

株式会社 MBA Solution代表取締役CEO。1990年、九州大学経済学部経営学科卒業後、現・三井住友銀行赤坂支店入行。97年、銀行を退職しアメリカへ留学。インターナショナルビジネスで全米No.1スクールであるThunderbirdにてMBAを取得。MBAとして成績優秀者のみが加入を許可される組織、ベータ・ガンマ・シグマ会員。2001年、ビジネススクール卒業後、米国人パートナーと経営コンサルティング事業を開始。MBA Solutionを設立し代表に就任。現在、本業にとどまらず、各種マスメディアへの出演、ビジネス書の執筆、講演など多方面で活躍中。主宰する『ビジネスパーソン最強化プロジェクト』には、2万5000人以上のビジネスパーソンが参加し、無料のメールマガジンを通してMBA理論を学んでいる。

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