また、「済州島で慰安婦を連行した」という慰安婦問題をめぐる報道(1982年)を今年8月の点検記事で取り消した件についても、「誤った記事を掲載し、訂正が遅きに失したことを読者におわびする」と謝罪した。
翌12日の全国紙各紙はこぞって一面トップで朝日の会見について報じ、「日本の国益を大きく損なったことを考えれば、謝罪は遅きに失した」(読売新聞)、「日本の立場や外交に深刻な影響をもたらした」(毎日新聞)などと厳しい見方を示している。中でも早い段階で朝日の「東電撤退報道」を否定する内容を報じていた産経新聞は、「自社の主張に都合のいい部分をつまみ食いし、全体像をゆがめて伝えたのではないかとの疑念は拭えない」と批判。さらに朝日が8月に掲載した慰安婦報道の点検記事について木村社長が会見で「内容には自信を持っている」と述べた点について、「本心では悪くないと考えているようにみえる」「言い訳と自己正当化に満ちた甚だ不十分な内容だったにもかかわらずだ」と論評している。
●朝日社内に充満する憤り
このように新聞を含めたあらゆるメディアが一斉に朝日批判を繰り広げているが、今回取り消された東電撤退報道について、朝日記者はどのようにみているのであろうか。
「政府が非公開にしていた吉田調書の存在を明かすだけでもスクープなのに、なぜあのような書き方をしてしまったのか。『存在する』というだけではインパクトが弱いと判断し、記事に“箔を付ける”ために調書の部分部分をつまみ食いして東電撤退という内容を捏造してしまったのかもしれない。記事を取材・執筆したのは『プロメテウスの罠』(2012年度)、『手抜き除染』(13年度)で2年連続新聞協会賞を取った特別報道部だったため、上層部も過信して十分なチェックを行わなかったのか、はたまた上層部の意向が働いて“方向性ありき”で書かれたのかは定かではないが、いずれにしろ根が深いことには違いない」(朝日記者)
このように朝日記者も問題視する東電撤退報道、そして慰安婦報道問題への批判が広がり始めた8月以降、社内では上層部を批判する動きがすでに出始めていたという。別の朝日記者が明かす。
「8月後半くらいから毎日のように社内では部長会が開かれ、その内容を部長が各部単位で記者たちに説明する臨時部会がたびたび開かれていた。そこでは侃々諤々の議論が行われ、上層部に対するかなり厳しい意見も出ていた。また、大人しい朝日の記者にしては珍しく、100~200人ほどの記者が連名で労働組合を通じて上層部へ意見書を提出するといった動きも起こり、さらにジャーナリスト・池上彰氏が朝日を批判する連載記事を一旦不掲載にしたことが発覚すると、内部の記者30人以上が上層部を批判するツイートを発するという事態も起こった。そうした社内の反発に上層部も背中を押されて、11日の謝罪会見につながった面もあるのかもしれない」