そのためブラジルキリンは通期計画を下方修正した。年初には売上高2159億円、営業利益119億円としていた通期計画を売上高は2062億円、営業利益70億円に引き下げた。上期の不振ぶりを見る限り、通期計画を達成できるかどうかは不透明だ。前身のスキンカリオール創業家は、販売低迷にあえいでいたビール会社を高値で売り抜け、巨万の富を手にしたため、「キリンHDはババをつかまされた」という辛辣な見方もある。
キリンHDはW杯日本代表の公式スポンサーになり国内ビール類販売増を見込んでいたが、日本代表チームは予選で敗退したこともあり、国内販売への効果はほとんどなかった。
●熾烈な居酒屋争奪戦でも苦戦
キリンHDは国内のM&Aでも誤算続きだ。アサヒが今年3月、マグロの解体ショーで知られる居酒屋大手チムニーに資本参加した。米投資ファンド、カーライル・グループが保有するチムニーの発行済み株式の9.1%を25億円程度で買い取った。チムニーは居酒屋「はなの舞」「さかなや道場」など700店の居酒屋を全国に展開し、13年12月期の売上高は前期比5%増の440億円。昨年12月、イオン系の酒類卸やまやがTOB(株式公開買い付け)でカーライルなどから株式を取得し50.6%を保有する筆頭株主となった。
チムニーにはキリンHDが5.1%を出資していたが、新たにアサヒが資本参加して、持ち株でキリンHDを上回った。居酒屋チェーンは出資比率に応じてビールを入れるのが業界の慣習だ。キリンHDの「一番搾り」からアサヒの「スーパードライ」へ切り替わりが進んだ。キリンHDは業務用の大口販売ルートで取りこぼした。勝ちにこだわるアサヒが、キリンHDの米びつに手を突っ込んで奪った格好だ。
ビール会社による居酒屋争奪戦は熾烈である。「牛角」などを経営するコロワイドは、サントリーからアサヒに、店で売るビールの銘柄を変更した。キリンHDが大株主に名を連ねる鳥貴族では今年4月、ビールの銘柄がキリンからサントリーに変わった。
キリン失速の背景には、海外、国内ともに誤算が重なったことがある。
(文=編集部)