●オーディオ御三家の栄枯盛衰
パイオニアの音響事業からの事実上の撤退で、「オーディオ御三家」は消滅することになる。同社創業者は松本望。牧師の次男として1905年に生まれた。望の運命を決定づけるスピーカーに出会うのは東京の電機商で働いていた時だ。米国製のダイナミックスピーカーに聴き惚れて、自分の手でスピーカーをつくりたいと一念発起し、38年に福音商会電機製作所を設立した。敬虔なクリスチャンだった松本は社名を「福音」とし、スピーカーの商標をパイオニアとした。
同社は同族経営だった。3代目社長は望の長男の誠也で14年間社長を務めた。次男の冠也は専務、会長になった。4代目社長は伊藤周男で、創業者・望の夫人の千代の姪と結婚して姻戚関係にあった。テレビ進出の失敗で大きなダメージを受け、松本家の同族支配は終止符を打つことになった。
御三家の1社、ケンウッドは、08年に日本ビクターと経営統合を余儀なくされた。11年10月、持ち株会社のJVCケンウッドとケンウッドを含む事業会社が合併し、ケンウッドは65年の歴史を閉じた。
もう1つの御三家、山水電気は今年7月に破産に追い込まれた。70年代にはアンプといえば山水電気というほどの人気を博していたが、アンプしか競争力のある主力商品がない山水は、オーディオブームが去った80年代後半から経営危機が表面化。外国企業への身売りを繰り返したが、12年に東証1部を上場廃止になった。民事再生手続きを進めていたが、スポンサーがつかなかった。海外投資ファンドに頼りすぎたため、国内の音響機器メーカーやユーザーが離れていったと指摘されている。
●「携帯型」普及の波に押される
音楽を聴く仕組みはレコード、カセット、CD、MD、HDDなどと進化してきた。今や、アップルのiPodに代表される携帯型音楽プレーヤーや、iPhoneをはじめとするスマートフォーン(スマホ)が主流だ。携帯型音楽プレーヤーやスマホの普及により、パイオニアが得意としてきた据え置き型のオーディオ機器の市場は急速に縮小した。電子情報技術産業協会の統計によると、CDが聴けるミニコンポなどの「ステレオセット」の出荷台数は2000年の303万台がピーク。iPodが登場した01年以降、市場は急激に縮小し、13年は48万台とピーク時の15%(85%減)に落ち込んだ。携帯型音楽プレーヤーとスマホの普及が、「オーディオ御三家」にとどめを刺した格好となった。
(文=編集部)
【続報】
オンキョーはAV(音響・映像)機器事業をパイオニアの同事業を統合し、オンキョーの傘下に置くことでパイオニアと最終合意した。まず、パイオニアのAV機器事業を切り離し、オンキョーの傘下に置いた上で、15年7月にオンキョーのAV機器事業を分割し、統合する。