日通は赤字のペリカン便を切り離すことができてニンマリだった。大赤字の事業を引き継いだ郵便事業会社が、営業損益の段階から赤字を垂れ流し続けるのは当然の帰結である。
赤字事業を丸飲みにするという信じ難い経営判断ミスを犯した郵便事業会社の社長が、誰あろう鍋倉真一氏である。郵政官僚の鍋倉氏は東京大学法学部卒。総務審議官を経て、06年駐ハンガリー大使、09年郵便事業会社の社長に就いた。JPEX問題で鍋島氏は致命的な経営判断ミスをした。民間会社なら巨額赤字をもたらした経営責任を問われて合併を機に退くところだが、合併新会社の社長に“昇格”するというのだ。
一方、会長になる三菱商事の商社マン出身の古川洽次氏は九州大学法学部卒。三菱商事副社長、三菱自動車副会長を経て、07年、ゆうちょ銀行会長。09年、郵便局会社の会長に就いた。
古川氏は三菱自動車副会長時代に、ハゲタカファンドの餌食になるという悲喜劇を演じた。04年4月、ダイムラー・クライスラーが三菱自動車の支援打ち切りを通告したとき、助け船を出したのが三菱重工業、東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)、三菱商事の三菱御三家。古川氏は三菱商事から副会長として派遣された。
新経営陣は資金調達のため、米大手証券JPモルガンを引き受け先として1260億円の優先株を発行した。JPモルガンはすかさずカラ売りを仕掛けて三菱自動車株は急落。その後、JPモルガンは、優先株を普通株に転換。すぐに転売して、巨額の売却益を手にしたのである。
優先株を持っている者にとって、株安はおいしい話なのだ。安くなった分、大量の普通株と交換できるからだ。カラ売りを仕掛けて株価が下がったときに、すかさず優先株を普通株に転換して、ただちに転売すれば、絶対に儲かる。
三菱自動車が大量の優先株を発行して資金を調達するにあたって、金融関係者の間では「ハゲタカファンドに食い物にされる」と懸念する声が上がり、それが現実のものとなった。リスクを無視した経営陣の経営力に疑問符がつき、会長兼CEO(最高経営責任者)、副会長、社長兼COO(最高執行責任者)の3首脳は一斉に辞任に追い込まれた。副会長だった古川氏は、わずか1年で、お役御免になった。
新会社、日本郵便の喫緊の経営課題は郵便事業会社の出血を止めることだ。それには、経費の6割以上を占める人件費の圧縮に手をつけなければならない。従業員のリストラという“聖域”に踏み込むことが肝心だ。
全国2万4000郵便局、従業員20万7561人を抱えるマンモス企業の抜本的な改革という力仕事を、決定的な経営判断ミスを犯した過去をもつ官民出身の2人のトップが担うことになる。トップの力量を見れば、その会社の明日は判る。
株式を上場しているのであれば、日本郵便株は、断固、売りだろう。
(文=編集部)