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小黒一正准教授の「半歩先を読む経済教室」(11月23日)

消費税、財政破綻回避には32%へ増税必要との試算 再増税延期で将来の税率上昇の懸念

文=小黒一正/法政大学経済学部准教授
消費税、財政破綻回避には32%へ増税必要との試算 再増税延期で将来の税率上昇の懸念の画像1消費再増税延期、衆議院解散・総選挙について報じる新聞各紙

 安倍晋三首相は11月18日、経済成長の下振れ懸念が強まったと判断し、来年10月に予定していた消費再増税の1年半延期について国民に信を問うため、衆議院の解散を正式表明した。

 すでに21日に解散しているので、もはや再増税延期を止めることはできないが、筆者はこの延期は間違った判断だと考える。もし17年4月に延期した再増税が実施されるなら、まだ傷は浅い。しかし、将来の経済動向は誰も予測がつかず、景気が低迷した時でも本当に増税が実行できるのか疑問が多い。実際に今回は増税を延期している。

 それに1997年4月の消費増税実施(3%→5%)から、今年4月の増税(5%→8%)が国会で決まるまで17年もの時間がかかっており、政治の一寸先は闇である。実際、消費増税の延期が16年4月ではなく17年4月となったのは、16年の夏に参議院選挙が予定されているからだろう。

 リーマン・ショック(08年)や東日本大震災(11年)のような異常事態が起らない限り、次の再増税を延期することは賢明な選択ではない。主な理由は、以下の2つだ。

 第1は、財政危機を回避するのに残された時間はそれほど多くないためだ。つまり、財政の限界である。米国アトランタ連邦準備銀行の経済学者リチャード・ブラウン氏らの研究(「Braun and Joines, 2011」)は、政府債務(対GDP)を発散(無限に膨張)させないために、消費税率を100%に上げざるを得なくなる限界の年を計算している。結果は消費税率が10%のままならば2032年まで、消費税率が5%のケースでは28年までとなっている。

 同研究は試算していないが、消費税率が8%のケースでは30年頃が限界の年となるはずだ。そもそも消費税率を100%にすることは現実的には不可能だろう。ならば、これらの限界年は、その後どんなに財政再建の努力を行っても財政破綻を防ぐことはできない限界の期限を示していることになる。また、そもそも今回の増税は「止血剤」に過ぎず、財政を安定化、つまり対GDPでの政府債務を発散させずに一定比率に安定化させるには、消費税率は20%を超えるという現実も重要である。

●ピーク時の税率は32%

 そして第2の理由は、現在の議論で欠けている視点だが、再増税が遅れれば財政的に同じ効果を持つ税率引き上げ幅は2%より大きくなるためである。さらにいえば、財政を安定化させるためには、最終的にどの程度の税率が必要なのかも議論されていない。

小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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