持ち株会社のベネッセHD会長兼社長と中核事業子会社ベネッセコーポレーション社長も兼務した原田氏は昨年12月2日の会見で、「余剰人員があることは就任前からわかっていた。緩やかに経営を変革しようと考えていたが、事件があった以上、スピードを加速するしかない」と語った。原田氏がベネッセHDのトップに招かれたのは同年6月21日。その直後の7月9日に顧客情報流出事件が発覚。業務委託先の元社員が不正に顧客情報を持ち出し、3504万件分の情報を複数の名簿業者に売却していた。
流出事件の痛手は大きかった。2015年3月期の連結売上高は期初見通しの4860億円を4670億円に下方修正。最終損益は最大で90億円の赤字(前期は199億円の黒字)になる見込み。1995年の株式上場以来、初の最終赤字に転落する。
大きいのは、流出事件の影響で、ベネッセHDの看板である「進研ゼミ」などの通信講座の国内会員数が、昨年10月時点で前年同期比7.1%(25万人)減の325万人にまで落ち込んだことだ。情報流出が確認できた顧客に500円分の金券を配布するおわびの費用などで、特別損失が300億円強にまで膨らむ。
流出事件が起こったのは原田氏が就任する前のことだ。ベネッセHDに乗り込んできた原田氏に反発していた役員たちも、事件の責任を問われると沈黙せざるを得なくなった。昨年10月までベネッセコーポレーション社長を務めていた小林仁氏は詰め腹を切らされ、海外事業開発担当のカンパニー長に格下げされた。
事件を逆手に取って、原田氏は人事権を完全に掌握した。そして、ベネッセHDの構造改革を一気に推し進める好機と判断したのだ。ベネッセの構造改革は、ベネッセHDオーナーの福武總一郎氏から原田氏が託された最優先の経営課題だった。