回転寿司チェーン「スシロー」を展開しているあきんどスシローが、1月15日に社長交代を発表した。2月1日付で水留浩一氏が新社長に就任する。水留氏は外部から招請される、いわゆる「プロ経営者」だ。日本航空副社長やアパレル大手ワールド専務などを歴任し、複数企業の再生フェーズにおける経営を経験している。代表権を返上して取締役最高顧問に退く豊崎賢一現社長は、会見で「豊かな国際感覚、経営のプロとしてのノウハウ、ビジネスマンとしての高度な経験、明確なビジョンを語れる先見性。この4つを兼ね備えた方を株主と協力して探した」と説明した。
豊崎氏のいう株主とは、外資系投資ファンド、ペルミラである。ペルミラとしてはスシローのプロパーであり経営経験が長くなった現社長をあえて外して、新社長に全権を付与しようという意向なのだろう。
豊崎氏のスシローでの経営実績は誇れるものだ。高卒で辻調理師専門学校へ入り、すし職人としてスシローの前身「鯛すし」へ就職して以来同社一筋、職人として頭角を現し、取締役営業部長を経て2009年6月に社長へ就任した。
スシローは03年に東証二部に上場していたが、投資ファンドのユニゾンが08年にTOB(株式公開買い付け)により最大株主となり、09年4月に上場廃止した。新オーナーとなったユニゾンは、豊崎氏の職人技能とすしビジネスへの造詣を評価して社長に抜擢した。しかし、投資ファンドとしてリスクマネーを投下したユニゾンは、スシローの経営に保険をかけた。それが、豊崎氏を補佐する経営人材、加藤智治氏の専務起用だった。大手経営コンサルティング会社マッキンゼー出身の加藤氏は理路整然と経営戦略を練り、現場上がりの豊崎氏はメニューや仕入れに目を光らせ「うまいすしを腹いっぱい」という職人魂を追求。2人のツートップはバランスの良い補完関係を築き、11年9月期には1店当たりの年間売り上げが3億円を超え、「かっぱ寿司」を展開するカッパ・クリエイトホールディングスを抜いて回転寿司業界の首位となったのである。
次期社長を待ち受ける困難
しかし、順調に成長してきたスシローは、12年9月にペルミラへ約10億ドルで売却されてしまう。ユニゾンはこのエグジットで約540億円の売却益を得たと報じられている。これを機に、ユニゾンから出向・転籍していた経営陣は、加藤氏を除き全員スシローから引き揚げてしまった。ユニゾンからの派遣経営者だった加藤氏も、14年2月に退社に至った。
投資ファンドからの派遣経営者の立場は筆者も経験したが、派遣元だった資本家が撤退してしまうと、次の新しい資本家となじめないことが多い。新たなファンドとしても、別の経営者を自社で選抜して送り込みたいものだろう。そこで加藤氏が阿吽の呼吸で退職したと思われるが、スシローを大躍進させたというトラックレコードを引っ提げ、次の就任先も引く手あまただろう。
一方、新社長として送り込まれた水留氏は大変だ。業績が良くてうまくいっている会社を引き受けるのは、企業再生より難事だからである。前経営陣は同社を日本一にのし上げてしまった。業績は拡大しきって、成長速度は遅くなってきている。
回転寿司の一業態、国内の特定市場という組み合わせのままでは、スシローのさらなる発展の余地は少なくなってきている。この状況で着任したプロ経営者、水留氏はどんな戦略を選択し展開していくのか。とても興味深いところである。
(文=山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役)