プロキシーファイトの対象となったのは、取締役の選任議案だ。通常、取締役の選任議案は会社側提案を覆すのが難しいとされる。議決権行使助言会社として有名な米・ISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)が反対票を投じるよう株主に助言した場合でも、なかなか過半数を獲得するところまではいかない。
共同ピーアールは2011年に創業社長による会社資金の私的流用が発覚し、内部調査委員会に続いて第三者委員会による調査が入り、創業社長やその協力者の役員が辞任した。
さらに昨年2月、創業者個人が保有していた20.6%の株式が、6.5%を保有する大株主の広告代理店・新東通信に譲渡され、同社の保有割合は27%に上昇した。同年9月までに買い増しをして、現在は29.9%になっている。そして、今回の株主提案は、この新東通信から出されたものだ。
3割保有の筆頭株主と会社側が対立
新東通信は今年2月に、株式の保有目的を「業務提携を行い、関係を密にする」から「株主提案を行うため」に変更し、今回の総会に臨んでいる。
共同ピーアールには現在4人の取締役がいるが、いずれも今回は改選期に当たっていない。新東通信はこの4人に加え、同社の社員2人、会長・谷喜久郎氏の子息で現在社長を務める谷鉄也氏、弁護士の平英毅氏、船井アドヴェンチャー代表取締役の下土井幸雄氏の合計5人を、新たな取締役として送り込む株主提案を行った。このうち、谷氏、平氏、下土井氏の3人は社外取締役で、平氏と下土井氏は有価証券上場規程に定める独立役員の定義にも該当するという。
つまり、現職4人の解任こそ求めないものの、取締役会で過半数を取れるだけの取締役の受け入れを求めたことになる。会社側は、新東通信から受けた提案理由の全文を公開している。
要約すると、
(1)14年12月期で3期連続赤字である
(2)14年12月期にウェブ関連のプロジェクトで5億7500万円もの赤字を出しており、この額は13年12月期の純資産の58%にも当たる巨額である。事業計画の見通しの甘さと経営管理能力の欠如の結果であり、上場会社としての信用を失墜させている
というものだ。
「この経営危機に、筆頭株主として送り込む取締役とともに対応してもらいたい」というのが新東通信の主張であり、言っていることは確かに筋が通っている。しかし、共同ピーアール側はこれに反対し、同社社員3人を含む5人の候補者を立てた。その理由は、
(1)約3割の株式保有で、経営を事実上支配するのはおかしい
(2)ウェブ事業の損失は一時的なもので、創業者による会社資金の私的流用で悪化した本業のPR業は順調に回復している
(3)新東通信が立てた候補者にPRのプロはいないため、経営力の強化には役立たない
(4)他の顧客が嫌がる
というものだ。
4番目の「他の顧客が嫌がる」については、少々解説が必要だろう。要するに、電通や博報堂、アサツー ディ・ケイなどの大手広告代理店は規模こそケタ違いだが、新東通信とは同業である。共同ピーアールに新東通信から取締役が入ると、同業者である新東通信に自社の情報を把握されてしまうことを懸念し、共同ピーアールに仕事を頼まなくなるのではないか、という意味だ。