誰からも反対されたセブン-イレブン、なぜ成功できた?鈴木敏文会長の直感と現場主義
現在存在しない業態は、誰も理解できない。コンビニといっても、誰もそれがなんなのか理解できないわけだ。人間は、理解できないものに賛同しない。これは、ソニーのウォークマンしかり、アマゾンの書籍販売しかりである。「歩きながら音楽を聞く」「インターネット経由で本を買える」という、その製品やサービス、ライフスタイルを想像できなかった当初は、「そんなものは売れない」「そんなサービスは誰も利用しない」といわれていた。
今、私たちは成功したビジネスについて後付けで「先見の明があった」「素晴らしい市場分析」と評価するが、鈴木氏は過去の書籍やメディアのインタビューなどで「どう変わっていくかは常にわからない」と言う。だから、環境変化に対する対応は、自分の信念、自分の感覚を信じるしかないわけだ。
徹底した三現主義
草創期のセブンでは“三現主義”で、鈴木氏をはじめとする社員は自分の感覚を養っていた。セブン第1号店は74年に開店するも、鳴かず飛ばずで苦しい経営が続いていた。せめて掃除だけでも手伝おうと社員が第1号店を訪れると、さまざまな商品の中で、掃除用具は全然売れておらず、一方でソフトドリンクは欠品だらけという現実を発見する。その原因が、卸の大口配送にあることを突き止め、ドミナント出店と併せて、小口配送形式を実現する。
このように、現地で現物を見て、現実を知ることで、彼らはマーケティング感覚を養っていったわけだ。
今、私たちはFacebook、TwitterなどのSNS、Googleから得られる大量の検索結果、テレビやYouTubeなどの配信動画などから、あまりにも多くの情報を日々浴び続けている。しかし、それを自分の拠り所なく受信していても、情報の洪水に溺れるだけだ。自分の軸を持ちつつも固執せず、自分の感覚を大事にしながら情報を受信する重要性を、鈴木氏の成功から改めて学ぶことができる。
(文=牧田幸裕/信州大学学術研究院(社会科学系)准教授)