増加する鉄道の相互直通運転で、激変する沿線経済〜大型開発の渋谷、高まる震災時のリスク…
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昨今の相互直通運転(相直)で変わった人の流れや、鉄道ビジネスとは切っても切れない「不動産開発の最前線」をレポートした特集だ。鉄道会社による開発は、人の流れや街のにぎわい、住宅選びの基準などにも変化を及ぼすのだ。
●相互直通運転で大きく変わる人の流れ
『Prologue つながる首都圏の鉄道網~東横・副都心線乗り入れで 沿線経済に起きた大異変』では、今年3月、東京急行電鉄(東急)東横線と東京メトロ副都心線の相直が始まった。すでに副都心線は西武鉄道池袋線と東武鉄道東上線との相直を行っており、横浜高速鉄道みなとみらい線との相直をしている東横線と、5路線がつながったことになる。
今年のゴールデンウイーク、相直効果を享受した駅は多い。東上線の川越駅は17%、みなとみらい線の元町・中華街駅は31%も乗降客が増えた。さらに、副都心線の新宿三丁目駅の乗降客数は63%の伸びを記録したのだ。新宿三丁目駅に直結している、国内で最大の売上高を誇る百貨店・伊勢丹新宿店は、90億円を投じて改装した効果もあって、売上高は10~20%増で推移している。一方で、乗降客を減らしたのが、渋谷駅だ。横浜方面から渋谷を通過してしまう人が増えたためだ。
『特集Part 1 鉄道が変える街』では、通過されるようになった渋谷の巻き返しに注目している。今後14年間にわたって駅周辺で開発が続く、渋谷大改造が行われる。2012年の渋谷ヒカリエに続き、17年度には南街区、18年度には道玄坂街区に新たなビルが完成する。20年には渋谷駅の真上に一連の目玉となる超高層ビルが出来上がるのだ。東急やJR東日本が、一大商業施設を計画している。合わせて、東京メトロ銀座線やJR埼京線のホームも、乗り換えやすい位置に移動してくるという。
リニアとJR山手線、2つの新駅構想で品川に高まる期待も紹介している。このほか、14年度中にJR東日本は、上野~東京駅をつなぐ東北縦貫線を完成させる。現在、上野駅が終点となっている東北本線(宇都宮線・高崎線)、常磐線を東京駅で東海道線に接続し、直通運転を開通させる。狙いは山手線や京浜東北線の混雑緩和だ。上野~御徒町駅間で213%の混雑率を180%にまで緩和できるという。
また『特集Part 2 都市鉄道の新潮流~ターゲットは伸びる航空需要 激化する空港アクセスの戦い』では、国内線の6割が集中する東京国際空港(羽田空港)に向かう2路線、すなわち、JR山手線の浜松町駅を起点とした東京モノレールと、京浜急行電鉄(京急)の取り組みを紹介している。
京急は、1998年に品川・横浜方面からの直通運転を開通して以降、利用者数を伸ばしてきた。現在、一日当たりの乗降客数は、京急空港線が8万1196人、東京モノレールが6万6120人と、京急がシェアで上回っている。
京急は、10年に京急蒲田駅を高架化し、品川駅から羽田空港までを15分で結ぶ「エアポート快特」を新設。12年には、10分間隔で運行するなど本数を倍増させている。
さらに今年、政府は羽田空港からの京急と成田国際空港からの京成本線を新たな地下鉄で結ぶ“都心直結線構想”を打ち出している。京成押上駅と京急泉岳寺駅間の11kmを地下鉄でつなぎ、新東京駅も開設する。新東京~羽田空港間は18分、新東京~成田空港間は36分になるというのだ。
●資産価値・利便性の向上、しかしリスクヘッジは十分か
これにより、ますます利便性が高まることで、沿線の資産価値は増すのではないかと、ダイヤモンドは「マンション買う人・借りる人必見 首都圏駅力マップ」などを掲載している。
記事では、特に不動産業界関係者にとって目新しいものはなく、一般のビジネスマンまたは不動産投資家向けといったところだろうか。
しかし、読後感はどこか、鉄道業者とゼネコン業者の浮かれ具合が漂う。
今の一極集中でストレスが増し、次なる直下型大震災のリスクが高まる東京で、「相直」は果たして良いことばかりなのか?
毎日のように起きる人身事故や、遠く離れたエリアでの信号機故障でも、ダイヤは大幅に混乱しているというのが現状だ。
そして、何より、大震災への対応ができているのか。そもそも、再開発計画は東日本大震災前に構想されたものばかりで、「東日本大震災後」の視点がない。次なる大震災が起きれば、「相直」電車はことごとくストップ。もろさを露呈し、帰宅難民がターミナル駅に大量発生するのではないか。鉄道会社は「平時の利便性」だけを前提しがちだ。大震災が起きても麻痺しない沿線はどこか? 今後、こういった視点で切りこんでいただけることを期待したい。
(文=松井克明/CFP)