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ぐっちーさん(投資銀行家、コラムニスト)

家計を蝕む円安ダメージ〜アベノミクスで雇用改善のウソ、進む物価上昇・税や保険料増

文=ぐっちーさん
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家計を蝕む円安ダメージ〜アベノミクスで雇用改善のウソ、進む物価上昇・税や保険料増の画像1完全失業率を発表する総務省のHPより

 モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がける投資銀行家であり、「AERA」(朝日新聞出版)、「週刊SPA!」(扶桑社)で“過激な”コラムを連載しているぐっちーさん。あまりの過激さゆえテレ東を“出禁”になってしまったぐっちーさんが、ビジネスパーソンが押さえておくべき“建前なし”の常識をお届けします。 

 みなさまは、本当にアベノミクスで恩恵を受けていますか?

 いつも書いていますが、一般メディア(新聞、テレビ)などはスポンサーからさまざまな圧力を受けるために、彼らの都合の悪いことはほとんど書けません。ですから、そういう報道を信じていると、現実とはまったく違うことを信じさせられることになります。

 例えば円安

 円安によって輸出が増えて景気が良くなることはなく、むしろ輸入物価の上昇により我々の生活は苦しくなるとずっと主張してきました。日本の輸出依存度はわずか11%しかなく、それが40%を超えている韓国とはまったく違う経済構造にあることは明白でしょう。

 しかも日本の輸出で円安の恩恵を受けるドル建ての決済は、全体の輸出の約50%程度なのですから、恩恵を受ける企業は11%のさらにその半分程度となります。トヨタ、ホンダなどの輸出企業の業績が円安差益によって上昇するのは当たり前です。

 しかし、圧倒的に輸入品の使用比率が大きい我々一般国民は、輸入物価の上昇にさらされ、事実ガソリンを筆頭に値上げの嵐であります。

 当然国内に軸足を置く内需企業にとっても悩みは同じで、4-6月の第1四半期決算を見るととてもアベノミクス効果どころではなく、アベノミクス逆噴射とでもいいたいような数値が並んでいます。

 日本航空は燃料費の高騰で前年同月比純利益は32%減、優良企業の味の素も輸入冷凍食品の採算が悪化、経常利益は21%減、輸出型に見える三菱重工業にして26%減、HOYAは47%減などなど、枚挙に暇がない。むしろ円高期だった2006年から11年にかけて史上最高益をたたき出した企業が多かった事実と考え合わせると、円安のダメージは相当に大きいと考えねばなりません。

 東証一部だけで見ても35.9%とほぼ3社に1社が減益決算となっている。中小企業に至っては良かったといわれている前回の日銀短観においてさえ、景況判断はマイナスでした。推して知るべしであります。

 株価は上がっている、といわれていますが、一方的にコストを削減し、人件費を削ればその企業の利益率は上がりますから、単純に株価も上がる話になる。つまり失業率が上昇しつつ、株価は上がる、ということが起こりうるわけです。株価が景気の先行指標などという話は、リストラなどが存在しなかった1980年代の話であって、そんな時代はとっくに終わっています。

 さて、この文脈でいくつか記事を拾ってみましょうか。

●失業率6月3.9%に改善 4年8カ月ぶり低水準 – 日本経済新聞電子版(7月30日)

 これは日経新聞に出た日本の失業率の記事ですが、これでは日本の失業率がかなり改善したという印象を与えます。「4年8カ月ぶり、となればそりゃ大変だ」ということになるのですが、この失業率というのは、あくまでも労働力人口に占める完全失業者の割合を示す比率にすぎません。今のアメリカがそうですが、この労働力人口という求職者そのものが減ってしまうと当然失業率は少なく見えるので、必ずこの労働人口をチェックすることが必要です、そしてこれを見てみると、6月にはこの労働力人口が前月比15万人も減少しています。失業者の数に変化がなくても、この程度の失業率の低下は十分起こり得るのです。

 さらに言えば失業率そのものも、日本はみなさんが思っているほど高くありませんでした。ほぼ4%台というのが日本の失業率の数字で、リーマンショック後にそれが5%(わずか5%ですよ)になったのが、また元の水準に落ち着いてきた、という程度にすぎません。

 加えて、この就業者の中身はリーマンショック前とは様変わり。非正規もアルバイトもすべて雇用者と計算されていますから、同時に発表されている非正規雇用者が前月比9万人増加、という筋を見れば労働市場は改善どころの話ではない、ということがすぐわかりますね。

 という具合に新聞は平気でバイアスをかけてきますので、特に見出しは信用してはならないのです。少なくともアベノミクスなどで株価が上がり、円安で企業業績が良くなって雇用が増えるなんてことにはまったくなっていません。

 さらに消費税率アップが始まるまでに、すでに我々の可処分所得はこの2年間で大幅に減少しています。11年から見てみますと、子ども手当が縮小され、住民税の年少扶養控除が廃止、厚生年金の保険料引き上げ、今年の1月からは復興税が乗っています。大和総研の試算では年収500万円、専業主婦の4人家族は11年から今年にかけて14万4500円の負担増という計算が出ています。みなさんの実感とほぼ同じなのではないでしょうか?

 これに消費税、すでに毎年上がり続けている介護保険料、健康保険料などが追い打ちをかけ、電気料金の値上げなどもかかってきます。そしてほとんどの食料品も円安のせいでどんどん上がる。

 リフレ派といわれる人々は、こうやって物価が上昇していけば、早く買わないと値上がりするので人々はどんどん消費するようになるのだ、と断言してる人たちです。頭がおかしい、としか私には思えないのですが……。

●消費者心理6カ月ぶりに悪化 6月調査 – MSN産経ニュース(7月10日)

 ということで消費者心理は悪化の一途をたどっています。

 にもかかわらず、内閣府は基調判断を「改善している」としているのですから、一体何を考えているんだろうか、ってな話です。浮かれている場合ではないことは明らかでしょう。

麻生発言の真意

 メディアのバイアスは、政治報道でも見られます。麻生太郎副総理兼財務大臣の「ヒトラーに学ぶべきだ」という発言が話題になっていますね。私は例に出すにしても「ヒトラー」という固有名詞自体が欧米ではタブーになっているので、そのこと自体は非難されても仕方ないと思います。

 ただ、「みんな本当に何をおっしゃったのかご存じなの? その場にいたの?」と言いたいわけでして、「発言内容を見たいな」と思っていたらちゃんと朝日新聞が出してくれました。

●麻生副総理の憲法改正めぐる発言の詳細 – 朝日新聞デジタル(8月1日)

 まず、出だしの部分はこうです。

「僕は今、(憲法改正案の発議要件の衆参)3分の2(議席)という話がよく出ていますが、ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。

 そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持(きょうじ)であったり、そうしたものが最終的に決めていく」

 つまり、ヒトラーは軍事的に政権を乗っ取ったわけでもなんでもなく、極めて民主的に、しかも世界で一番進んでいるといわれたワイマール憲法下のドイツで生まれてきたのだから憲法をどうするのか、きちんと決めないと大変なことになりますよ、とおっしゃっているわけですね。

 そしてずっと話を続けてきて、つまり興奮してわーわーやって勢い任せに物事を決めるのは危険だ、とお話になる。その最後にこう言っています。

「(靖国についても)昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静かにやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。

 わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪(けんそう)のなかで決めてほしくない」

 ジャーナリストが騒いだのはこの部分。

「憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね」

 となって、ナチスの手口に学んで勝手に憲法を変えようと麻生は言っている、と新聞、テレビで大騒ぎになったのですが、どう読んでも彼はそんなこと一言も言ってませんね。
ある日突然気が付いたらヒトラーを当選させて、ワイマール憲法がなくなってしまった。そういうことに日本がならないように、ナチスが何をどうやったのか、一度研究してみたらいいんじゃないかね、という事を言っていて、それはナチスがまさにその喧騒の中から生まれてきた、という歴史的認識に基づいて、それを学び、憲法改正など重要な問題はぜひわーわーと熱狂のなかでやらないで、一つ腰を落ち着けてみんなで議論しましょうよ、と最後に結論づけているわけです。

 少なくとも「ナチスドイツの例を学んでそれにならってさっさと憲法を変えてしまおう」などと、一言も言ってません。

 私の場合もブログや著作でもよく読みもせず、やみくもに批判される人がたくさんいるので、よくわかります。多分麻生さんは「俺はそんなこと言ってねえ」と今頃はむくれておられるかもしれませんが、まあ、ヒトラーという単語を出したこと自体がまずかった、というべきでしょうか。

 しかし、ことほど左様に世の中のメディアは誤報だらけですからね。

 必ず原典、元データにあたることが大事です。

ぐっちーさん

ぐっちーさん

モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&A、ベンチャー投資、企業再生などを手がけている。また、「AERA」(朝日新聞出版)、「週刊SPA!」(扶桑社)などでも執筆。

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