ワーキングマザーを苦しめる“マタハラ”は、なぜ減らない?一方的な異動に解雇、嫌がらせ
「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/8月31日号)は「職場のお荷物か? 戦力か? ワーキングマザー」という特集を組んでいる。「出産しても働き続けるワーキングマザーが増大中だ。職場の周囲や上司は向き合うべきか?」と問う内容だ。
女性が育児期の30代に離職する「M字カーブ」は、現在も鮮明だ。第1子出産後も仕事を続けるのは、全体の38%。6割強が会社を辞めている。その理由のトップは「家事・育児に専念するため、自発的に辞めた」というものだ。企業にとっても、せっかく投資した女性社員のキャリアが途絶えるのは、損失となる。日本が再び成長するには女性活用が不可欠なのだ。
東洋経済では東京・板橋区に住むワーキングマザー(ワーママ)堀田文奈さん(仮名、31)のケースを紹介する。
「もとは総合職として貿易部門に配属されたが、上司に妊娠を報告すると、『残業できない』『海外に行けない』のを理由に、一般職への異動を告げられた。やむなく受け入れ、今は新人女性から指示を受ける毎日。『休みを取ると嫌みを言われる。もう3人目は産めない』(堀田さん)。会社の行為は法的にも限りなくクロに近い。濃淡の差はあれ、働く母親は一定のハンデを背負う」
一方で、企業側には企業の論理がある。
「将来の幹部候補生と見なしている女性には、人事部は5年くらいのキャリアプランを細かくつくっている。2人目の子どもができると、その計画が狂ってしまう。悩ましいのは、そういう話を上司が本人にできないこと。非常に気を使う。だから交友関係を調べ上げ、社内の友人から間接的に聞き出すこともある」(特集記事「人事部長匿名座談会 ワーママを扱うのは難しい 職場では不満も上がる」)
企業側は、マタニティハラスメントという問題(マタハラ)にも注意する必要がある。「妊娠を報告しても『おめでとう』と言われない職場がある。『この忙しい時期に何を考えているんだと言われた』『切迫早産で入院中に解雇したいと言われた』」――妊娠に関連して、こうした心ない言葉で傷つけられたり、職場で嫌がらせや不利な処遇を受けるのがマタハラだ。2013年5月に日本労働組合総連合会(連合)が行った調査では、妊娠した働く女性のうち、マタハラを『経験した』のは4人に1人だったという。マタハラが起きている職場は、「相談者の業種を見ると、医療・福祉、卸売り・小売り、サービス業が上位を占めている。少ない人員で業務をこなすのが常態化している余裕のない現場が浮かび上がってくる」。
(特集記事「もう無知では許されない マタニティハラスメントの実態)
●女性が働きやすい職場とは
さらに本誌独自データとして、「女性が一番働きやすい会社」のランキングをあらゆる角度から検証している。「女性幹部登用一覧」「女性平均勤続年数」「育児休業取得者数」など、女性の労働環境に関する問題を総まくりだ。
また、「先進ニッポン企業 ワーママ最前線!」という記事が注目だ。ローソンや大和証券グループ本社など、先進的な企業の取り組みを紹介しているが、中でも「4時間正社員」「6時間正社員」制度を導入しているクロスカンパニーを紹介している。例えば6時間社員は、9時30分から16時30分までの昼休みを除く6時間のみで、17時には保育園に迎えに行き、夕飯の支度に取りかかる、といったライフスタイルが可能だ。
クロスカンパニーは若い女性に人気の高いブランドを持つアパレル企業で、95%が女性社員、平均年齢は25歳という会社だ。先の「ブラック企業大賞2013」のアパレル業界賞を受賞した企業としての悪名のほうが知られているかもしれない。ブラック企業大賞の受賞理由は「売り上げがとれなければ給料も休みも与えない」と大学を卒業した年の09年4月に就職した女性社員を自殺に追い込んだというもの。詳しくは『ブラック企業大賞で露呈、恐ろしい過労死の実態~ワタミ、東急ハンズ、人気アパレル…』。
「4時間正社員」「6時間正社員」制度は11年8月より導入されたもので、昇給や昇格の査定基準は同じ。健康保険や福利厚生も通常の8時間正社員と同基準だという。クロスカンパニー社長はインタビューに答え、「女性支援を手厚くしているのは、CSR(企業の社会的責任)のためではない。仕事の効率が通常の正社員より高いから」とやはり悪びれず、効率至上主義の観点からの導入であると語っている。
まだまだ女性をめぐる論点がある。
実はライバル誌の1つ経済誌「日経ビジネス」(日経BP社/8月26日号)で、「女性昇進バブル 我が社の救世主か 疫病神か」という特集を組んでいる。こちらは、「2020年までに指導的地位に占める女性の比率を30%まで増やす」という安倍晋三政権の掲げた数値目標を受けて、多くの企業が今春から女性管理職の大量登用に乗り出しているが、企業活動の現場ではさまざまな混乱が生じているという現実を揶揄的にレポートしているのだ。
日経ビジネスには、著書がベストセラーになっている日米女性経営幹部も登場している。米国ではFacebook・COO(最高執行責任者)のシェリル・サンドバーグの書いた『LEAN IN』(日本経済新聞出版社)もベストセラーとなっている(働く女性たちに、もっと自信を持って“一歩踏み出そう”という内容だ)。
日本ではディー・エヌ・エー取締役ファウンダーの南場智子が自身の起業の裏側を明かした『不格好経営』(日本経済新聞出版社)がベストセラーだ。南場は日経ビジネスのインタビューに答え、企業は完全実力主義であるべきで、国の介入に対しては否定的な立場を表明し、「ただ、女性活用において何よりまずすべきなのは、男性を今の価値観や働き方から解放することではないでしょうか。男性の場合、日本の社会では仕事に邁進する以外の生き方を選択しづらい。けれど男性だって育休を取ってもいい」と本質的なアドバイス。
また南場は、東洋経済のインタビューにも答えているが、こちらでは「日本人はよく、堂々と制度を利用できるにもかかわらず、迷惑をかけたくないという。でも『迷惑をかけようよ』と言いたい。後で恩返しすればいい。もちろん現場はきついこともあるが、順番で助け合っていこうと考えるのが自然だ」と、またまた深いアドバイスをしている。ディー・エヌ・エーの躍進の理由が垣間見られるような気がする。
●産休・育休に対する意見の相違
最後に残念な議論も紹介したい。
「週刊現代」(講談社/9月7日号)の「曽野綾子さん『出産したら会社を辞めなさい』私はこう思う」という記事によれば、週刊現代は前号で作家・曽野綾子による寄稿「何でも会社のせいにする甘ったれた女子社員たちへ」を掲載。曽野は一部の女性社員が「育休は当然の権利」と主張し、職場の同僚たちの苦労を顧みないことについて違和感を述べる。
「マタハラやセクハラに対し、企業側は、反対意見を言えないよう言論を封じ込まれているようです。それにしても会社に迷惑をかけてまで、なぜ女性は会社を辞めたがらないのでしょうか」
こうした内容に賛同と批判の声が多数寄せられ、賛同派(評論家・金美齢、評論家・西舘好子)、批判派(産婦人科医・宋美玄、社会学者・上野千鶴子)の見解を紹介している。
批判派の上野は「まったくいまどき化石のような古臭い議論であきれ果てました。『出産したら会社を辞めなさい』という発言自体がマタハラです」と指摘するが、まさにその通りだ。
(文=松井克明/CFP)