『半沢直樹』の理不尽な銀行の実態は現実?付き合いたくない銀行1位が三井住友なワケ
ドラマ『半沢直樹』の舞台である銀行業界は、バブル崩壊後に経営危機に陥ったため、再編を繰り返した。金融のグローバル化もあって、現在の3メガバンクグループに集約。最近は業績も復活し、昨年度は3メガだけで、実に2兆8000億円もの実質業務純益(本業の利益)を叩き出している。順調に出世すれば、30代前半で1000万円の大台を突破する高給。学生からの人気は高く、最新の就職人気ランキングで、3メガはいずれもトップ10入りするほどだ。
しかしその内幕は「上司の失敗は部下の責任」「銀行員は人事がすべて」「失敗すれば片道切符の出向」という理不尽極まりない人間社会の縮図でもあるのだ。
実はダイヤモンド誌は現在、ドラマ『半沢直樹』の原作である半沢シリーズの第4弾『銀翼のイカロス』を連載中。そこで、『半沢直樹』人気に乗る形で、銀行業界の内幕に迫っている。
巻頭インタビューには、原作者である池井戸潤氏が登場。池井戸氏はかつて三菱銀行(三菱東京UFJ銀行)に在籍。半沢直樹同様に企業融資の最前線にいたという。「お金を貸す仕事は好きでしたね。あれは面白い仕事だと思う」と語る。
「『半沢直樹』の舞台はどの銀行なのか」という質問には「明確なモデルがあるわけじゃない」と言いながらも「今、私は中小企業で役員をやっていて、メガバンク3行とはいずれも付き合いがあるので、各行の事情やカラーを参考にしている部分はあります」と語る。
外見的な部分は旧東京三菱銀行、「テレビドラマはみずほ出身の方が監修しているらしいので」カルチャーはみずほ銀行、ドラマで連発する土下座については三井住友銀行が近いという。
現在の銀行の問題点については「バブル崩壊前は、企業が持つ技術力などを基に自分で判断して稟議を上げて、支店長からOKが出れば融資ができた。それがバブル崩壊後に大量に焦げ付いたため、主観を排した信用格付けに基づく融資へと変質してしまった。要するに、人間的な部分はどんどん排除されて機械的になった」。銀行の常識は世間の非常識で「いまだに選民意識を持った銀行員なんていっぱいいる」「公的資金で助けてもらった瞬間に、その時代は終わったんですよ」と銀行員も普通のサラリーマンだということを強調する。
●付き合いたい銀行、付き合いたくない銀行
特集で必読は「頼れる銀行 頼れない銀行 信頼度ランキング」だ。「銀行の存在感は10年で大きく低下」し、銀行マンの著しいレベル低下も明らかになった。上場企業362社アンケートを実施し、「メインバンクの能力は以前と比べて低下したか」の問いに対し、20%(68社)が「はい」と返答。金融業界経験者へのアンケートでは能力低下に対し、「はい」が60.9%にまで及んだのだ。近視眼的な提案や数字だけの評価に厳しい意見が多く、内部の理由としては「内部管理の仕事が悲劇的に増えている」(上席調査役)という。
さらに「付き合いたい銀行」のトップは三菱東京UFJ銀行(103社)、みずほ銀行(66社)、三井住友銀行(49社)となった。一方で「付き合いたくない銀行」のワーストは三井住友銀行(20社)、三菱東京UFJ銀行(14社)、みずほ銀行(14社)という順になった。三井住友銀行がワーストに選ばれた理由は「銀行都合の営業活動」「銀行というよりは“商売”という感覚」が目立つのだという。貸すも貸さないも銀行次第――こうした姿勢が、融資先の立場に立って融資に尽力する『半沢直樹』を大人気にさせる理由になっているのかもしれない。
さらに関心の向きは、ダイヤモンドオンライン「『半沢直樹』のような行内抗争は本当にあるのか? 元バンカーの筆者が感じるリアリティと銀行への警鐘」も必読だ。著者である真壁昭夫・信州大学教授は、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)出身。業界再編、企業統合で生まれた派閥の激しい陣取り合戦が、相応のリアリティを生み出しているのだと分析している。
「企業統合とは、口で言うのは簡単だが、実際に組織を一緒にするのは大変な作業だ。(略)銀行内で使っている用語が異なる。一般企業であれば、社内で使っている用語などはどうでもよさそうな気がするが、銀行の場合には、顧客に出す書類の名称を統一したり、決算時の勘定科目を統一することが必要になる。また、現場レベルの仕事の進め方や、仕事に対するカルチャーを擦り合わせるのも大仕事だ」
そして、陣取り合戦が始まるのだが、派閥抗争に明け暮れているようではグローバル競争に勝ち残れないだろうと指摘する。土下座に派閥抗争……『半沢直樹』は極めて日本的なドラマなのかもしれない。
(文=松井克明/CFP)