鉄道、ラッシュ時の運行遅延激増のワケ~背景には鉄道会社の人命より利益重視の姿勢か
「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/10月26日号)は「いま知りたい終活」という特集を組んでいる。「限りある人生だからこそ、生前から準備しておきたい。相続税から葬儀・墓、遺言、そして終末期医療……。不安な時代を『終活』で乗り切る」という内容だ。
日本の高齢化が止まらない中、かつてタブー視されていた「死」を前向きに、人生の終わりまで自分らしく生きるため積極的に活動しようという「終活」をキーワードとして、相続税、葬儀・墓地、遺言の最前線を紹介している。
相続関係は経済誌の定番もので、東洋経済では3月16日号の「1億人の税」の特集以来、ほぼ半年ぶりだ。
期せずして、「日経ビジネス」(日経BP社/10月21日号)も「相続ショック どうする? あなたを襲う『負の遺産』」という特集だ。15年1月1日から始まる相続税の大増税、そして、この9月には最高裁判所大法廷が非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定を違憲とする判断を示したことで、ここにきて相続ネタが重なった。
本記事では、経済各誌が相続の特集をするたびに筆者のコメントを出しているので、今回は別の人のコメントを紹介したい。
「『終活』という言葉がいつ頃からはやりだしたのかは知らないが、(略)私にはこのような造語の裏には、ブームをつくり出して一儲けしようと考えている人の陰がチラチラ見えて、ある種の怪しさが感じられる。『終活』という言葉を英語に訳すとPreparation for deathとなるだろうが、英語の『死の準備』という言葉に較べて『終活』という言葉はいかにも軽くて尊厳を欠いている。東洋経済の記事をパラパラめくりながらその理由を考えてみると、『終活』には精神面の問題がほとんど触れられていないことに気がついた。(略)『金としきたりと世間体』が話題の中心になっている国は日本ぐらいのものではないだろうか?」
と指摘するのは、沢利之氏(コラムニスト。元三井アセット信託銀行執行役員)だ。相続学会の専務理事も務める氏は、BLOGOSのコラム「『ブーム』としての終活の怪しさ」の中で「葬儀を出す方もそれを執り行う葬儀社や寺院も葬儀を経済的なイベントととらえている/今の『終活』ブームの旗を振っているのは誰か? 葬儀屋、お寺、不動産会社、本業では食べていけない司法書士、行政書士、税理士などのサムライ業、出版社などなどである」と指摘している。http://blogos.com/article/72192/
経済誌にカネ以外の基準を求めても……という気もするが、一考に値する指摘だろう。
●大都市圏で運行遅延激増のワケ
実は東洋経済誌は2週にわたって、第2特集として「集中連載/鉄道がおかしい」という記事を掲載している。「JR北海道のずさんな管理体制で、鉄道の安全神話はかつてないほど揺らいでいる。大都市圏ではラッシュ時の運行遅延が激増している。本誌調査によると、その数5年間で約2倍。日本の鉄道に今、何が起きているのか」という内容で、首都圏の激増する輸送遅延の原因はどこにあるのかに迫っている。
駆け込み乗車、酔客や高齢者、歩きスマホの転落事故に、「動線が悪い」「出口に偏りがある」駅舎の複雑な構造と融通が利きにくい相互直通運転などが次々と電車を遅らせているが、最大の理由として人身事故が挙げられる。
今号の「集中連載 第2回 増え続ける人身事故 自殺はなぜ減らない」では、「東京から千葉、埼玉、神奈川方面に向かう路線を見ていくと07年度以降、何か異常事態が起きているのでは、と思えてくるような結果だ(略)関東における人身事故は、02~06年は年間300~400件だったが、08年度に500件を突破。12年度は625件にまで増えている」現状を紹介している。
人身事故をいかに防ぐか。特集記事「ホームドアにも新型が登場 人身事故を防げ 急ぐ鉄道会社」では、人身事故対策としてはホームドアの完備が求められるが、現実的には設置に1駅3~4億円かかる費用面の問題を挙げている。
このように、電車の人身事故と輸送遅延も経済的な問題として扱っているのだ。カネでとらえざるを得ないのは経済誌の宿命なのかもしれない。
しかし、経済誌の中でも社会派の「週刊東洋経済」としては、せっかく他誌が取り上げにくい現実に迫った点は評価できるが、どこか物足りない。鉄道会社も、ラッシュ時以外に駅員はホームにゼロ。空きスペースには客単価の高そうな商品を並べる店舗を設置、カネカネカネの利益最優先の経営体制であることは否定できない。鉄道会社はそこまで利益を求めずに、公共機関としての役割を重視すべき、という視点もあってもいいのではないか。80年代からの民営化と効率性重視の市場原理主義が進み過ぎて、不採算路線ばかりのJR北海道が、その矛盾を露呈したばかり。
効率性重視の市場原理主義だけが経済ではないだろう。
(文=松井克明/CFP)