あるタクシー運転手が「今が一番稼げる」「月に100万円以上稼げる」と語っていたとX上に投稿され、大きな話題になっている。本当に今、タクシー運転手は稼げるのか。だが反対に、タクシー運転手は非常に過酷だとの情報もある。実際に現役のタクシー運転手に話を聞いたところ、「稼げるのは都内、しかも23区内だけ」との見方を示した。
X上に、タクシーを利用した際に運転手から「今が一番景気が良い」「月に100万円以上稼げる」と聞いた、と投稿され、注目を浴びている。この運転手によると、コロナ禍では1日走り回っても3万円程度の稼ぎだったが、今は8万円稼げるようになったという。
その背景には、深刻な運転手不足がある。新型コロナウイルスが蔓延した2020年には、タクシーの利用客が激減し、稼げなくなったタクシー運転手が続々と辞めたり、廃業する事業者も続出した。その後、景気の回復とともにタクシー業界は運転手を募集しているものの、人手不足は解消できず、少ない人数でやりくりしている事業者が大半というのが現状だ。
現役のタクシー運転手に話を聞くと、一部で稼げるようになっているのは確かだが、それは都内だけではないかとの見方を示す。
「去年、コロナが感染症法上の5類に移行したことで、外国人旅行客がどっと増えました。空港からの移動や都内での観光にタクシーを利用する観光客が多く、昼間でも稼げるようになりました。しかも、今はアプリでタクシーを呼ぶお客さんが多いので、以前に比べて待ち時間が減り、効率も良くなっています。
とはいえ、これも23区内だけじゃないですかね。ちょっと地方のドライバーに話を聞いたら、今でも年収300~400万円くらいがほとんどではないかと言っていました」
では、都内であれば、月に100万円ほど稼げるとの情報について、信ぴょう性はどれほどあるのか。
「100万円くらい稼げているという人の話は聞いたことがありますし、実際に、あるタクシー会社は求人広告に『月収100万円以上も可』と謳っているところもあります。しかし、1時間当たりの稼げる額が劇的に上がっているわけではありません。タクシーの運賃は厳密に決まっているので、どんなにお客さんを乗せても、稼げる金額には上限があります。
おそらく100万円も稼いでいるドライバーは、かなり長時間働いているのではないかと思います。コロナ禍でドライバーが減り、現在はまったく人手が足りていません。おそらくどのタクシー会社も、乗る人が少ないためにタクシー自体が余っている状況です。そのため、働けば働くほど稼げるというのが実情なんです」
労働時間規制の影響は?
働けば働くほど稼げるとはいえ、今年4月からタクシー運転手にも時間外労働の上限が設けられ、長時間労働が制限されているはずだ。
「上限が設定されたとはいえ、日勤の上限が月299時間だったのが288時間に減らされただけで、隔勤(夜勤)の乗務をしている人は変更がないんです。事故防止の観点から、休息時間は厳しく管理されるようになりましたが、1回の乗務で20時間以上働いている人も結構いますね。そうすると平均して8~9万円くらい売り上げられます。月に11~13回働けば、100万円くらいになる計算です。
しかし、そんなに無茶な働き方が長続きするわけありません。体を壊したり、精神的に病んで辞める人も多いです。それで、人手不足に拍車がかかる悪循環に陥っている会社もありますね。『月に何十万円稼げる』『入社祝い金何十万円支給』などと好待遇を謳っている求人広告をよく見かけますが、めちゃくちゃ離職率が高い会社なのではないかと疑ってしまいます」
では、長時間労働にならないように、乗務時間や収入などを自分の都合に合わせてコントロールはできないのだろうか。
「多くのタクシー会社では、求人に『働き方は自分で決められる』『働く日時や収入も自由自在』などと喧伝していますが、実際には人手が足りないので、思ったほど休めないケースがほとんどではないでしょうか。私が知る限りでも、数カ月で退社してしまう方をかなり多くみてきました。私の勤めている会社でも、今年入った方が先月だけで2人辞めました。決して長時間労働を強制するようなことはなかったのですが、そもそも中高年の方は夜勤などに体が慣れず、体力的に厳しいと感じるようです」
大金が稼げると期待して、タクシー業界に転職する中高年の方は多いようだが、夜通し運転するのは想像以上に大変なのかもしれない。
(文=Business Journal編集部)