ちなみにシャツは6000円、ネクタイは8000円、靴は4万円、ベルトは1万円、カバンは3万円が最低限の目安だという。
4月は、ブログ記事をまとめたニュースサイトBLOGOSで「なぜみんな黒スーツを着てしまうのか?黒スーツにみる『礼儀正しい』と『フォーマル』の違い」が掲載されるなど、「『黒スーツ』がNG」というアドバイス的な論調が目立ったが、「AERA」(朝日新聞出版/4月7日号)記事『黒スーツは本当に有利? 採用側のホンネは…』は、「黒スーツ」が流行を始めたのは2000年ごろの就職イベントの大規模化が一因ではないかと分析している。不況による買い手市場化で、学生は萎縮し、就職イベントの参加者が数千人規模から数万人規模になるにつれて、なるべく目立たないようにと黒を選ぶようになったという。
それ以来、「金融は黒でなくてはいけない」などという噂も流れて、「黒スーツ」が流行を始めたのだ。11年末にはソニーグループが採用活動における「服装自由化」を宣言したが、黒スーツは増えるばかりだ。
ただし、採用側は「色は見ていない」「見ているのは清潔感があるかどうかや、身だしなみ」という。
筆者には思い当たることがある。黒スーツが増え始めたのは00年からというが、実はこの時期から、スーツ量販店がブランド戦略を加速させているのだ。00年には青山商事が若年層をターゲットにしたファッション性重視のブランド「THE SUITS COMPANY」の店舗を展開し始め、01年にはコナカが20~30代前半をターゲットとし、女性服にも重点を置いた「スーツセレクト21」ブランドをスタートさせた。同時に量販店で働く店員は、それまでの口うるさくスーツのサイズ、シャツやネクタイとの組み合わせ、着こなし方などをアドバイスしてくるベテランから、採寸するだけの若者に取って代わった。
企業にとっては人件費を安く抑えられるが、その一方で、スーツ売り場の店員はいわば素人レベルとなり「ビジネスで黒スーツは着ない」「一番下のボタンはとめない」などといった社会的なルールを伝えることがなくなってしまったのではないか。筆者は「一番下のボタンはとめない」と教わったのは量販店のベテランからだった。しかし、そういった店員は今や量販店では見かけない。「AERA」の記事でも「スーツの量販店で店員に『1着目は黒がいい』と勧められた」という証言もある。
実は、黒スーツを普及させようとしているのは量販店ではないか、という疑念がわいてくる。
(文=松井克明/CFP)