秘かに話題となっているのは、経済産業省が開発を表明した「地域産業構造分析システム」。帝国データバンクが持つ約70万社の財務データや、約500万件に上るといわれる過去5年分の取引データを使い、地域内の資金や取引の流れを地図上に示せるようにするシステムだ。このシステムを使えば、地域内の産業構造がどのようになっており、例えばリーマンショック(2008年)や東日本大震災(11年)、あるいは工場の誘致や移転、大型ショッピングモールのオープンなどにより、産業構造や企業の取引がどのように変わってきたかを調べることができる。そして、この新システムを使い、条件を加えて分析すると、自動車や電機などのサプライチェーン(供給網)が地図上に浮かび上がってくるというのだ。
具体的な仕様は明らかになっていないが、前述の通り、このシステムは実データを元にしており、企業名などもわかる。つまり、システムを丹念に追っていけば、サプライチェーンのなかで取引が集中している、重要な役割を果たしている無名企業を見つけ出すことができる。つまり、新興国企業にとっては買収候補先を洗い出すには格好のシステムなのだ。
情報漏えいの懸念も
もちろん、経産省も新システムが孕むこうしたリスクは承知しており、「セキュリティ対策を施し、利用履歴や内容をリアルタイムで把握するなど厳重な情報管理を行う」と説明している。しかし一方で、地域政策にも役立ててもらおうと、同省以外に都道府県や市町村の担当者も使えるようにするという。
厳重な情報管理をしているはずのシステムから情報漏えいが多発する中、オープン系システムの採用も広がる自治体へのハッキングや情報の不当な持ち出しを、本当に防げるのだろうか。
日本には無名で小規模ながらサプライチェーンのカギとなっているニッチ企業が多く存在する。経産省は、来年にも新システムを稼働させるというが、「十分な買収防衛策も整っていないこれらの優良中小企業が、海外企業による買収の標的になりかねない」という懸念の声が、早くも産業界からは上っている。
(文=編集部)