その一方で、依然として新聞やテレビの報道では、貯蔵施設の用地取得が大幅に遅れていること、最初の1年間を試験搬入と位置付けており、汚染土の0.2%程度しか持ち込めないことなど難航ぶりを指摘する内容や、地元の戸惑い、反発、不安を同情的に報じる内容が多いのが実情だ。地元を気の毒に思う気持ちは、誰しも同じだろう。しかし、東京電力が取り返しのつかない事故を起こしてしまったことは、消すことのできない現実だ。復興を進めようとすれば、事故処理、つまり中間貯蔵を進める以外の選択肢は、政府にはなかったはずだ。今後は、誠意をもって用地取得を進めて迅速に汚染土の搬入を終え、将来の最終処分地の確保に全力を挙げるべきである。
●経産省が出したアメ
汚染土の搬入が始まった3月13日の閣議後記者会見で、望月大臣とは別にもう一人、重要な発言をした閣僚がいた。「廃炉するかどうか、電気事業者が早期に判断することを期待する」と述べた、宮澤洋一経済産業大臣である。
宮澤大臣の発言は、単年度で一括処理することが原則だった会計制度の特例を認めて原発の廃炉損失を10年程度かけて処理する道と、来年4月に予定されている電力の小売り自由化後も廃炉費用を電気料金に上乗せして回収する道を経済産業省が開いたことを背景にして、電力各社に対し、運転開始から40年前後の歳月を経過した老朽原発の廃炉を急ぐよう促すものだ。これを受けて、敦賀原発1号機(日本原子力発電)、美浜原発1・2号機(関西電力)、島根原発1号機(中国電力)、玄海原発1号機(九州電力)の5基の廃炉が18日にも正式決定する見通しとなっている。
安全性に関する国民の信頼を取り戻して運転を停止してきた原発を再稼働しようと考えるのならば、単に福島第一原発の事故処理を急ぐだけでは不十分だ。闇雲にすべての原発を再稼働しようとするのではなく、安全性の観点から既存の原発を精査・選別して、再稼働する原発を絞り込むことも重要である。
筆者は早くから、万が一の事故が起きた時に被害を小さく抑えるため、その選別基準に半径100キロメートル以内の人口を勘案することなどを提案してきた。経産省内で議論されてきたのが、法令上は可能な20年間の運転延長を認めず、一律で運転開始から40年を経過した原発を廃炉させるという案だ。今回、宮澤大臣が迫ったのは、会計処理やコスト回収の面でのアメを用意することによって、電力会社が自主的にその決断を行うように促す政策である。老朽原発については、安全対策のコストがかさみすぎて再稼働しても採算が取れないと理論的に理解していても、廃炉に伴う急激なコスト負担の増加に経営が耐えられないと二の足を踏んでいた電力会社にとっては、福音である。
国民から見ても、福島第一原発事故後に発足した原子力規制委員会が耐震や津波対策の強化の観点から設置した新規制基準だけでは、本当に安全性が確保されるのか、わかりにくい面があった。それだけに、宮澤大臣が改めて打ち出した方針は、注目すべき政策といってよいだろう。経産省がようやく前面に立って原発問題に取り組む姿勢を見せ始めたという点でも、期待したいところである。