実はユニオンは、元出演者たちを中心に結成されたものだ。彼らは、7~17年間にわたりパフォーマーとして派遣契約で出演してきたが、「ショーをリニューアルオープンする」との名目で、昨年3月末で解雇を通告された。
「ミスティックリズムのパフォーマーたちの多くは、オリエンタルランドに直接雇用されているのではなく、中間会社を経由して雇われているにすぎません。彼らは個人事業主扱いで健康保険や国民年金、労災保険も自己負担です。しかも、オリエンタルランド側としては簡単にリストラができる格好の契約形態。今回も長年ショーを支えてきたパフォーマーたちを必要なくなったとして一方的に解約しています」(ユニオン)
名物アトラクションでも使い捨てが発生している“夢の国”の実態があるわけだが、長年働いてきたパフォーマーたちが、新技術プロジェクションマッピングに取って代わられる現実は、飛躍的に能力を拡大していくコンピュータに人間はますます仕事を奪われる「テクノロジー失業」の未来を描いた『機械との競争』(エリク・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー/日経BP社)の世界そのものだ。つまり、TDRはまるで『機械との競争』のテーマパークだ。
「ミスティックリズム終了についても、オリエンタルランド側に見直しを働きかけていきますが、次にリニューアルという名のリストラ対象として心配されているのが、『アラビアンコースト』エリアにある『マジックランプシアター』です。このショーは3D映像とパフォーマーがコラボレーションする人気のマジックショーですが、パフォーマーもステージのスタッフも外注なので、解雇しやすい状況にあるのです」(ユニオン)
ユニオンが結成されて約1年。ユニオンの要求によって、従来は前月までに届け出なければ認められにくかった有給休暇が直前の申請でも認められるようになり、また、その日の客数に合わせて短縮を余儀なくされていた労働時間もキャスト側が「シフト時間通り働きたい」と申し出れば希望が通りやすくなったという。このようにキャストの労働環境も少しずつは改善されつつある。
しかし、使い捨ての経営方針は変わらないのが現実なのだ。パフォーマーやミュージシャンたちの日々の鍛錬の賜物でもあるミスティックリズムは、別れを惜しまれつつも、幕を閉じる。
(文=松井克明/CFP)