わずか1年3カ月で初のCDリリースのイベントに辿りついたのは、初期メンバーの約4分の1。それはアイドル市場という情報環境で生きる難しさを、ファンの多くに印象付けることになっただろう。実際に、PIPが生きてきたこの1年あまりのアイドル市場は、順調なものではなかった。
簡単にいうと、アイドル市場の状況が、過酷さを増しているのが実情だ。特にAKB48グループなどのアイドルの頂点ではなく、地下アイドルの世界では今年のはじめから運営サイドとアイドル間のトラブルが頻発し、いくつかの有力アイドルグループが突然に解散・消滅していった。全体の統計がないので推測して書くしかないが、明らかにアイドル市場の底辺から地殻変動が起きていること、そしてその地殻変動自体は決して好ましい性格のものではなく、むしろアイドル市場の「縮小」を示唆するものであること。それが、PIPが生きてきたこの1年余の状況だろう。
PIPもまた例外ではなく、正直、筆者もエースやセンターらが大量に離脱した今年の夏のはじめには、「PIPも終わったな」と思ったものだった。
見逃せない物語の始まり
しかし、そこから2カ月あまり。リリースイベント初日にみせた5人のパフォーマンスは、以前とは比べ物にならないほどの力量を見せるものだった。それまでは「濱野智史のPIP」というイメージだったのだが、ここに至ってようやく「アイドルのPIP」が誕生したといっていい。ダンスのキレ、歌唱のつややかさと持久力、そしてMCの垢抜け度など、まだ多くの伸びしろを持ちながらも、かつて多くのメンバーがいた時よりも明らかに大きく前進していた。その姿には、前へ進む意欲しか感じない。
濱野氏によれば、「いま日本では、アイドルこそが情報環境の生態系の変化に最も敏感な身体性の『器』」(前出『アーキテクチャの生態系』より)だというが、まさにアイドル市場の過酷さとグループ自体の危機が、いまの彼女たちの身体を大きく変化させていっている。
もちろんまだ断言するには早いかもしれない。いままでの1年余は、あまりビジネスライクな環境に直面することなく、PIPの活動は行われていた側面が強い。しかし、ここからのリリースイベントは多くの関係者がかかわる、まさに営利的な市場環境そのものである。この1カ月ほどの新たな「情報環境」の中で、この少女たちの身体がどのような変容を遂げるのか、それは日本のアイドルの「今」を語るうえでも見逃せない物語の始まりになるだろう、そう筆者は予見している。
(文=田中秀臣/上武大学ビジネス情報学部教授)