PIP(Platonics Idol Platform:ピーアイピー)は、社会学者の濱野智史氏がプロデュースしたことで話題になったアイドルグループだ。9月22日、タワーレコード吉祥寺店(東京)を振り出しに、初めてのシングルCD『僕を信じて』(発売元:tokyo torico、販売元:ユニバーサルミュージック合同会社)のリリースイベントを開始した。PIPがデビューしてから1年3カ月が経つ。
濱野氏といえば、『アーキテクチャの生態系』(エヌティティ出版)、『前田敦子はキリストを超えた <宗教>としてのAKB48』(ちくま新書)という話題作で有名であり、それらの著作では一貫して情報環境の生態系に注目していることで知られている。
有能な研究者は理論だけでなく、その理論を現実に応用する野心を抱くことも多い。アイドルグループPIPは、情報環境がどのように社会を変えていくか、そのような濱野氏の考えを生身の女の子たちで具現化・可視化した試みにほかならない。
PIPは「アイドルを生むアイドル」という点がユニークなものと初期設定されていた。これはアイドルという種が一回限りのものではなく、生態<系>として継続していくというコンセプトに基づくものだろう。また同時に、PIPはアイドルの経済的自立を同時に目指し、アイドルをやめた後も女の子たちが生きていく手段を与えることを夢見た「共産主義」的な発想を秘めていた。これは地下アイドル業界で一般的に観測される「ブラック企業」的体質、例えば報酬がないどころか逆にアイドルに運営費などを支払わせて酷使するシステムなどへの抵抗としてもPIPは構想されていた。
PIPは2014年6月に22名のメンバーで出発した。初めてのお披露目の時には筆者は行かなかったのだが、業界の評価は総じて好意的で、実際に当時の動画や写真で視る限り、メンバーたちの個性と潜在能力は、「こんな子たちが、まだ埋もれていたのか」と思うほどレベルが高かった。
崩壊・消滅の危機
だが、そこからのPIPは決して順調ではなかった。いや、むしろこの1年3カ月の顛末を簡単に書くと、初期のもくろみの多くが挫折し、一気に崩壊・消滅の危機に立たされたといってもほかならない。初期のメンバー22名のうち、すでに半数が脱退。しかもその中には、グループをけん引していたセンターやエースなどの主力が含まれている。残った半数についても、実際に稼働可能なメンバーは、筆者の厳しめの評価で、わずか6名前後にまで落ちている。実際にリリースイベント初日は、5名だけが参加するものだった。