つまり、タレントと所属事務所は「雇用契約」を結んでいるわけではなく、あくまでも「業務提携契約」を結ぶ関係にすぎないというのだ。
また、『クロ現+』は統一契約書の原本を引用しつつ、「統一契約書では、芸能人が契約を解除する際、事前に書面で承諾を求めることが規定されています。また、事務所には、一定期間契約を延長できる権利が認められています」と、所属事務所側がタレントを縛りつける「根拠」も明らかにしている。芸能界では、ほとんどの芸能プロダクションが、この統一契約書をベースにした「不公平な契約」をタレントと結んでいるという。
この統一契約書は、誰がつくったものなのか。『クロ現+』は、その点についても、芸能界で大きな力を持つ音事協によるもの、と明らかにしている。
タレントの独立や移籍、なぜ“身勝手”扱い?
音事協は、大手芸能プロダクションの多くが加盟する芸能界最大の業界団体だ。
音事協について詳しいスポーツ紙の音楽担当デスクは、「音事協は芸能ビジネスに関するあらゆる権利の保護や啓蒙を行っている団体で、近年は違法ダウンロード対策やパブリシティ権の保護を求める活動などにも熱心。タレントにとっては、ある意味で自分たちの権利を守ってくれる頼もしい団体です」と話す。
しかし、『クロ現+』が指摘したように、統一契約書が所属事務所側に圧倒的に有利な内容となっているのは事実。タレント側からすぐに契約解除できないなど、さまざまなハードルが設定され、著作権などの権利関係も所属事務所側に帰属するケースがほとんどだという。
実際、のんの独立トラブルでは、「能年玲奈」が彼女の本名であるにもかかわらず、事実上の独立に際して「のん」への改名を強いられている(レプロ側は一方的な使用禁止は否定)。
では、音事協は何を目的とした団体なのか。芸能プロダクション関係者のB氏は、「音事協は業界の利益を守るための団体です」と語る。
「音事協が設立された理由のひとつに、『お互いの所属タレントの引き抜きを禁止する』というものがあります。規約として明文化されているわけではありませんが、音事協が発足した1960年代当時の芸能界では、苦労してデビューさせたタレントが売れ始めた途端にほかの事務所に引き抜かれる、というケースがよくありました。そこで、お互いの利益を守る一種の紳士協定のための装置として、音事協が設立されたのです」(B氏)
こうした経緯があるため、音事協から見ると、タレントの独立や移籍は「身勝手」となるわけだ。
しかし、長時間労働への規制強化など、今は国会でも多様な働き方や雇用のあり方が大きな問題になっている。また、法律の専門家の間にも、タレントを「労働者」とみなす動きがあるという。ところが、昔の古い体質から抜けきれない芸能プロダクションは、いまだにあの手この手を使ってタレントの独立を阻止しようとする。その結果、トラブルが続発しているのだ。