広瀬すず主演の連続テレビドラマ『anone』(日本テレビ系)の第8話が7日に放送され、平均視聴率は前回から0.5ポイント増の5.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。
このドラマ、ストーリーの進行がとにかく遅い。それでいて、脚本の坂元裕二氏が得意とする「名言」が飛び交う会話劇になっているわけでもなく、かなり見どころに困る作品になってしまっている。当初は広瀬すずの抑えた演技が見ものだったが、あまりにそればかりで少々見飽きてしまった。最近の回では、内容的にも目立ち度から見ても、慈愛に満ちた疑似母親を演じる田中裕子が主役のようになってしまっている。
さて、第8話の内容を一言でまとめると、「偽札づくりは失敗した」ということになる。完成した偽1万円札は1カ所を除いてどこの両替機やATMにも認識されず、首謀者である中世古理市(瑛太)は偽札をATM内に残してしまう痛恨のミスを犯す。
一方、林田亜乃音(田中裕子)が勤める法律事務所の所長・花房万平(火野正平)は彼女の行動に不審を抱き始め、ついには偽札づくりの現場を目撃してしまう。「見ないふりはできない」と亜乃音に自首を勧める万平。すると、音もなく理市が後ろから近付き、万平の首を絞めはじめた――という展開だった。
これまではダラダラと話を引き延ばしていたが、今回は偽1万円づくりの着手から失敗、そして部外者にバレてしまうまでが駆け足のように描かれた。偽札づくりの話で結構引っ張った割りに中途半端な結末に思えるが、さすがにこれで終わりということもあるまい。もうひとひねりを期待したい。
不安なのは、あたかも大変なことが起こるかのように見せかけて、肩透かしに終わる展開を繰り返していることだ。前回の第7話では、理市が偽札づくりのアジトとしていたアパートが妻の結季(鈴木杏)に見つかってしまうという絶体絶命のピンチが発生したが、第8話では「スマホのアプリを開発していた」と言われてあっさり納得してしまった。部屋の中に1万円札の一部のようなものがたくさん吊るされていたのに、怪しいとも思わないのはさすがにおかしい。
これより前にも、亜乃音の娘・玲(江口のり子)と理市の関係について、大変な修羅場が起こるかに見せかけてあっさりスルーしたという例もある。ラスト近くで次回への期待を高める「引き」を作ろうとするあまり、その後の展開を特に考えていないように思えてならない。万平が首を絞められた今回のラストについても、公式サイトの次回予告であっさりと死んでいないことをネタバレしている。
先々を考えていないといえば、そもそもハリカが「変わった子ども」だったという設定自体、ほとんど活かされていない。第8話で、『いいことがあると思って来ていないのに、ここに来たらうれしいことがいっぱいあった』と話すハリカの笑顔は自然でとても良かったが、演出が絶望的である。
ここは、息もつかずに思い付いたことを話し続ける幼少期のハリカを再現すべき場面であろう。そうでないと、ハリカにとって亜乃音の家がありのままの自分を認めてくれる場所であるという描写が弱くなってしまう。亜乃音の家に来てから一度だけ幼少期の話し方を披露したのに、その後すっかり忘れられてしまっている。
今回はこのほかにも演出のひどさが目に付いた。なかでも、カフェらしき場所でハリカが人と会った際に、隣に座っていた女性客が何度も顔をしかめてハリカを見た場面はまったく意味不明。単なるモブキャラなのに過剰に目立ってしまい、何か意味のある人物かと思ったほどだ。
また、ハリカと紙野彦星(清水尋也)が初めて電話で話すシーンは冗長すぎ。緊張して互いに話せない場面なのはわかるが、さすがに会話が進まなさすぎてひたすら退屈だった。もう少し見せ方というものがあるだろうと思う。
ただ、ようやく次回の第9話から話が大きく転換していくようだ。こう言っては身もふたもないが、9話と10話さえ見ればなんとなくわかったような気になれるドラマのような気もする。残り2回は視聴率も浮上するのではないか。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)